犬憑きさん 上巻 (スクウェア・エニックス・ノベルズ)

【犬憑きさん (上)】 唐辺葉介/Tiv スクウェア・エニックス・ノベルズ

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前作のPSYCHE (プシュケ) が、読むドラッグかと思うような、読んでて現実と妄想の境界があいまいになってくる酩酊状態に陥る、まあなんというかとんでもない本だったものですから、今回もそのたぐいかと構えて手に取ったんですよ。
なにしろ、タイトルにも犬憑き、なんてものがついてる作品ですから、陰惨極まりない物語になるのかと思っていたのですが。
いやはや、どうしてどうして。事前の印象を大きく覆されました。ここまで前作の筆致から大胆に変更してくるとは思いもよらなかったので、正直びっくりしました。

でも、第一話のあの話は随分とエグい話ではあるんですよ。少女の境遇といい、クラスメイトの悪意といい、彼女が犯してしまった残虐行為といい。
ただ、救われないまま終わるのじゃなく、切ないながらも希望の持てる結末になったので、ここでようやく前作と方向性が違うのかなあと気づいたわけです。

次の第二話【管狐】なんか、完全にイイ話だもんなあ。
常人から外れた世界に住んでいた少女が、転校した先で同じような境遇の、だけど普通の世界にしっかり生きている少女に出会い、その少女に手を引っ張られ、自分も普通の世界に生きてもいいんだと気付くお話。
管狐のマークの軽薄でこずるくも妙に愛嬌のある性格といい、なんか結構ポップで温かい伝奇モノになってるんですよ。

いや、悪いってわけじゃないんですよ。それどころか、これが素晴らしく面白い。狐憑きの真琴のゴーイングマイウェイの性格も、犬神憑きの歩の天然ほんわかなキャラも、典子のクールながらも実は優しいキャラといい、女の子たちが賑やかにわいわいと、暗く陰惨な過去を吹き飛ばすように楽しげに過ごしている風景は、ほんと面白いですし、それぞれのさり気ない優しさや気遣いが心に沁みて、ほんわかと温かくなる、とってもいい話なんですよ。
だったらそれでいいじゃないか、って話なんですけど。

なーんか、不気味なんですよね。
皮一枚隔てた裏側で、べったりと血糊が塗りたくられているような、悪意が滴り落ちているような。床板一枚踏み抜けば、そこにはとてつもないおぞましいなにかが手ぐすね引いて待っているような。

第三話で明らかになる謎の連続殺人事件。おそらくはプロローグに掛かってくるのだろう、歩に秘められた過去の闇。無邪気に人を傷つける子供たちの悪意の渦。
なんだかこう、ただでは済まないような。真琴がようやく手に入れた平凡で楽しい日常が、グチャグチャに磨り潰されそうな。
ものすごーく、いやーな気配がとぐろを巻いている気がするんですよね。その気配が、異様に不気味で、素直にこの温かさに浸っていられない警戒感がビシビシとアンテナ立ててます。

衝撃的な終わり方といい、これは続きが気になって仕方無いなあ。
PSYCHE (プシュケ) と同じようなものを望んでいる人は、これは違うものだと心得て手に取った方がいいかも……いや、根柢の部分ではこれ、同じなのかなあ。
ミクロからマクロに、どっぷり主観に浸かったところから、客観に、視点を後ろに下げて書いてるのかも。エンターテインメント性を高めながら。