ミスティック・ミュージアム3~I Pledge For My Dear~ (HJ文庫)

【ミスティック・ミュージアム 3.〜I Pledge For My Dear〜】 藤春都/森井しずき HJ文庫

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ああ、いいなあ。ラストのダドリーとアルダ、二人の想いの告白に、じんわりとした感動が浮かんでくる。
「My Dear」。あの言葉にどれほどの想いが込められていたのか。
永劫の時をたゆたいながら、人の営みを見守り続けるはずだったアルダが、永遠の頚木から解き放たれたとき、最後に選んだのはたった一人の人間の――一人の男の隣に寄り添い、その男の生涯を見届けて消えること。
それは、神として生きていたアルダが、神としての役目を終え、一人の女として在ることを選んだ瞬間だったわけです。
その姿を見ることが出来、その声を聞くことは出来ていたものの、これまでダドリーが自身に触れることだけは許さなかったアルダが、実体、すなわち肉を得て、ダドリーの手に触れることを、唇が触れることを、抱き締めることを許したあの瞬間、彼女は神であることを終えたのでしょう。
神が神であることを脱ぎ捨てる瞬間にも関わらず、この二人が想いを交わし、宣誓し合うそのシーンが、とても神聖で尊いものに見えたのはなぜなんでしょうねえ。
アルダは別に人間になったわけじゃないんですよね。普通の人には見えない、超常の存在のまま。彼女を愛し、彼女とともに生きるということは、ダドリーからすると、社会的な立場からしても難しいことのはず。妻をめとらず、その日常生活には使用人を使うようなこともできず、階級制度がガッチリと固まった19世紀のイギリスという国では、彼みたいな人が独りで生きるというのは大変なことのはず。それでも、アルダと生きていくことを選んだ彼の姿は、どこか自由に羽ばたく翼を得たように生き生きとしていて、どこか凡庸として冴えなかったダドリーという青年が、きっと彼が死ぬまで、アルダが消えるその時まで、赤の女神を退屈させることなく、最期まで楽しませ続けるんだろうなあ、と確信させるのでした。

時代背景が19世紀のイギリス。そのヴィクトリア朝時代のイギリスの社会や文化がこれだけ丹念かつ丁寧に描かれている作品はなかなかなく、その観点からも非常に興味深く読ませていただきました。
ライトノベルレーベルからだと、久美先生の【小説・エマ】くらいじゃないですかね。少女系レーベルだと、青木祐子さんがこの時代をメインに書いてらっしゃいますけど。
うん、三巻で完結。綺麗にまとまったかな。これで終わるのがちとおしい感もある、面白い作品でした。これがデビュー作ですし、次回も期待。