放課後の魔術師  (3)マスカレード・ラヴァーズ (角川スニーカー文庫)

【放課後の魔術師 3.マスカレード・ラヴァーズ】 土屋つかさ/ふゆの春秋 角川スニーカー文庫

Amazon


なるほどね。安芸は自分に向けられる恋愛感情に対して鈍感というわけではなく、恋愛という事象そのものに対しての知覚力そのものが鈍いのか。
確かに彼視点で見てると、あの二人のコミュニケーションは恋人同士のいちゃつきには全然見えんかったからなあ。遥が指摘するまで、こっちもまるで気がつかなかった。いやでも、遥は一目瞭然と言ってたけど、ナツメさんのあれはツンデレはツンデレでも飛びっきりのレベルだと思うぞ。それとも、あれはあくまで安芸視点ではそう見えていたというだけで、実際は顔を赤らめたり、声は上ずったりと、分かりやすい反応は示していたんだろうか。そうだとすると、安芸の目は腐ってるとしか言いようがないな、うん。
こりゃあ、遥がどんなにアプローチしても華麗にスルーされるわけだ。苦労するわ……いや、苦労はしてないんかな。もし、本気で好意を伝えるつもりがあるなら、誤解の仕様のないように直截的に告白してしまえばいいだけの話なんだから。
今のところは、遥にもそのつもりはないようだし。あれか。作中でも言ってるけど、惚れたら負け、あくまで安芸の方から惚れさせるつもり、ということなのか。
だとすると、彼女は彼女で鈍さに関しては安芸のことは文句言えないよなあ。場面場面で、明らかに安芸は遥のことを意識している挙動を示しているのに、気が付いてないんだから。
お互い、相手から投げかけてくる信号には、見事に気がついてないんだよなあ、やれやれ。
まあ、このポジティブ娘の場合、今の環境を楽しんでる様子もあるしなあ。珍しいくらいに理知的で聡明なヒロインである遥としては、自分の置かれている危うい現状を、もちろん正確に認識しているはずなんだけど、変に不安を感じていないのは彼女自身の精神のタフネスゆえか、安芸をはじめとした周りの人間を信頼しているからか。
……冒頭の行動を見ると、無鉄砲という面も無視できないけど。

と、ジリジリと進んでいるのかいないのか、微妙なところな主人公とヒロインの関係性だけど、それとは裏腹に彼らの周りの環境については徐々に加速をはじめているのかな。
<円環>の存在というのは、組織としてこれだけ絶対性を示されると反発が生まれるのも当然なわけで。どうにもこの組織の行動って、各魔術師一族の相互互助には機能していなくて、むしろ<円環>という組織の優位性・絶対性を保つために、各魔術師一族の力を削ぐ方向にしか向いていないような気がするんだけどなあ。これって組織が目的達成よりも組織そのものの保全、利益追求のために動く、つまるところ組織劣化してきているとしか……。
こうなってくると、それぞれに魔術師一族に<円環>への敵意や反感が醸成されていくのは無理がない。実際、安芸や理事長姉ちゃんら<蒼>の首脳部も、敵対ではないものの<円環>とは明確に距離を置きたがってるし、<円環>の利益にはならない方向性にあると思われる計画を密かに進行させているみたいだし。

だからといって<鴉>の行動理念は、健全な魔術師からすると認めるわけにいかない代物であるわけだ。
<円環>への隔意と、魔術師としての理念。このバランスの差異が、結局のところ、この第三巻での二組の男女の関係の錯誤に繋がってしまったのか。
【マスカレード・ラヴァーズ】というサブタイトル。読み終わった後に見ると、なかなか辛辣なサブタイですわ、これは。

となると、今後の斎条さんの立ち位置が興味深い。胡散臭さは相変わらずとびっきりで、確かになにか企んでいそうなんですけど、ナツメへの真摯な立ち振る舞いを見ていると、腹に一物抱えていても、裏表は案外なさそうではあるんですよねえ。しっかりと温度の在る優しさを持ち、でも情に流されず、誰にも依存せず、どこにも帰属せず、狂気などかけらもない理性を以って、自身の目的を遂行する。この人は、きっと強敵ですよ。
この人の目的は未だ不明だけど、それはたとえ安芸や遥たちと相容れぬものだったとしても、きっと納得はさせられるんだろうな、と思ったり。

対して、イドの方は底が知れた、というか非常に分かりやすくなってきた。ある意味、子供らしくて好感めいたものすら抱いてしまったり。彼はきっと感情の塊なんですよね。彼の安芸への敵意や反発は、どこか以前に合った膨大な好意の裏返し、裏切られたという想いからくるもののようにも見えて、気持ちはわからないでもないんですよね。安芸ももう少しうまいこと対応できたらいいんでしょうけど、イドや伊代の件に関しては安芸も普段のような大人の態度をとれないからなあ。イドから見たら、安芸は大人の対応しかしてないように見えて、それが余計に腹立たしいんだろうけど。この噛み合わなさが、逆に以前はよく歯車の噛み合った、仲の良い兄弟だったんだろうなあ、という想像を掻き立てられて、なかなか興味深い。こうなってくると、伊代の、二人を助けて、という遥へのお願いも共感できるんですよね。前の二人を知ってたら、そりゃつらいよ。しかも、原因が自分だったりしたらねえ。
出来れば、なんとかならんかねえ、と思いますよ、うん。