剣の女王と烙印の仔〈1〉 (MF文庫J)

【剣の女王と烙印の仔 1】 杉井光/夕仁 MF文庫J

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杉井光作品としては、デビュー作。あの電撃文庫から出ていた【火目の巫女】(続き希望)以来の本格ファンタジーときましたか。しかも火目の巫女は和風ファンタジーでしたからねえ、洋風世界観におけるファンタジー作品としては初めてとなるわけで。
最近、わりと同じタイプの男の子が主人公の作品が続いていたので、その意味でも普段とは違ったタイプの主人公を拝めそうということで楽しみにしていたのですが、なるほどこう来たか。
いや、個人的には火目の巫女みたいに女の子が主人公の作品も読んでみたかったんですけどね。それはまたの機会を待ちましょう。
相変わらず、過酷と言うべきか残酷というべきか、ファンタジーを書くとなると主要人物に対してこれでもかというくらいの酷い運命、宿命を大前提として突きつけてくるなあ、この人は。立ち向かうべき壁がやたらと高い、というよりも現在進行形でぐちゃぐちゃに潰され壁に叩きつけられながら奈落に真っ逆さまなあり様なんですよね。それを、主人公とヒロインが出会うことでかろうじて指が壁面に引っかかって、留まったような状態。されども、頭上からはさらに無数の落盤が崩落中、みたいな? んで、ある意味この二人が出会ったことで閉ざされた未来が開けると同時に、足元にも地獄の釜がふたを開いた、というかすかな希望とさらなる絶望がセットでプレゼント、という底意地の悪さを感じさせるスタートなんですよね。どんだけ苛めるんだ、と。
そんな悲惨極まる運命の渦中にあるだけに、この作品の主人公クリスにはフラフラと自己が定まらずに頭を抱えてうずくまるようなヘタレる余裕はまるでなく、眼の前に現れた自分の抱える呪いの意味を変えてくれた相手ミネルヴァに夢中でしがみついて離れまいとするんですよね。
最初はこれ、本当に溺れているさなかに掴んだ藁の一束、と言った感じでミネルヴァという少女がどうというのではなく、ただその存在に必死にしがみつくという雰囲気で、実際彼当人もしがみつく相手を失ったら、みたいなことをダイレクトに言ってますし、彼女個人を見ている風ではなかった。
それが、彼女に引っ張られて銀卵騎士団という今まで戦場を渡り歩いてきたクリスが出会ったことのない、自分を受け入れてくれる集団の中に入ることで、段々と変わってくる。
それでも、最初はミネルヴァを守ろうとする動機って、かつて自分が守れなくて見殺しにしてしまった、自分に刻まれた獣の呪いによって運命を喰い殺された母親の代わり、代替行為としてのそれだったように見えたわけですが、さらに付き合いを増し、ただの奴隷だと、自分の所有物だなんだと喚きながら、しっかりと自分を見てくれるミネルヴァの視線を受け止め、また彼女が抱える自分とは違う過酷な運命、明かされていく出自、それらに真っ向から立ち向かおうとするミネルヴァの強さ、同時に過酷すぎる宿命に怖じ気づき、すべてを投げ捨てて諦めてしまいたいと願う彼女の弱さ、その両面を一番近くで目の当たりにすることで、ミネルヴァという少女その人を守りたいと、逃避でも諦めでも自己防衛でもない、純粋な自分ひとりの願いを、胸にともしていく少年クリスの姿が……なるほど、これは一人の騎士の物語になっていくんだ。
周りの人々の幸を食らい、運命を食らいつくす呪われた獣の落とし子。
自らの死を予見し、その死の痛みに苛まれ続ける剣の女王。
破滅で終わるはずの二人の出会いがもたらしたものは、闇に閉ざされいたはずの二人の未来を開く希望の鍵。
二人は、その呪われた運命それ自体を、喰らい潰せるのか。
よしよし、盛り上がってきた。これは、また期待のシリーズの開幕ですよ。


それにしても、ミネルヴァことミーナの、クリスへの接し方はハチャメチャだなあ。大剣振り回す剣戟少女のくせに、こと仲間内でのやり取りをみてるとメンタル面は【さよならピアノソナタ】の真冬並みに繊細で、感情の振り幅が忙しない。明らかに、クリスみらいなのがしがみついてられるような芯の太い子じゃないんですよね。わりと早々にクリスが守らなきゃ守らなきゃ、という意識に変わっていくのも、良くわかる。いくら、バカバカバカと言われまくって、奴隷だ召使だ自分のものだ、と喚かれてもねえ(苦笑
まあ、自分の所有権を一生懸命主張してたり、下僕だ奴隷だと突き離してるみたいな言動をしてるのは、フランにちょっかいかけられたり、仲間に囃されたりしてるときが大半なので、かわいいったらありゃしないのだけど。そのくせ、クリスが大けがしたり落ち込んだりしたら、大慌てで大騒ぎして物凄い一生懸命に一番近くに寄り添ってくるんだから、可愛いったらありゃしない。そりゃ、フランあたりがからかったり、騎士団の連中が二人の関係をもう恋人と信じて疑わないのも無理ないよなあw
まあ、当人同士は恋人だのなんだのと言ってる余裕もないわけで、それ以上に夢中に必死に寄り添おうとしているところが、なんとも切なく尊く見えるわけですけど。

銀卵騎士団の連中も、なかなか個性的な面々で。ジルベルトさんのむっつりイイ人振りが尋常でないんですけど。この人、めちゃくちゃモテそうなんだけどなあ。
喰えない女騎士団長フランチェスカ、この人はなんでか速攻で伊藤静さんの声が脳内で当てがわれてしまったのですが(苦笑
いやー、自分あんまりこういう脳内で特定の声の人があてられる、という現象には経験がないのですが、今回ばかりはなぜか「はやて」の桂ひなぎくというか「咲」の竹井久の声が脳内にリフレインしたのでしたw
このおてんばで破天荒でお調子者でヘンタイ入ってて、でもくせ者というべき政治的手腕にも軍事指揮官としての際立った才能を持ち、それでいて情に厚い、というキャラクターは、うん、パーフェクトです。
胸もでかいしな!(それはどうでもいい