星図詠のリーナ (一迅社文庫)

【星図詠のリーナ】 川口士/南野彼方 一迅社文庫

Amazon


うん、これは面白かったー♪

「わたしが歩いた道を、見たものを、描いていくの。これは、わたしの地図」

父である国王の命を受け、辺境へと地図作りの旅に出た賢く若い王女「リーナ」と護衛の騎士たちは、正体不明の一団の襲撃を受け壊滅の憂き目にあったところを、流れの傭兵「ダール」に助けられる。
何があろうとも任務を全うしようとするリーナと臨時護衛に雇われたダールは、妖魔をかわし、夜盗を退け地図作り旅を続けていく中で宮廷の陰謀を掴むのだが、時を同じくして辺境の迷宮に眠っていた強大な何かが目覚める……。
正統派ファンタジーの新鋭が贈る「本格マッピング・ファンタジー」



これは題材の勝利と言ってもいいかも。いや、そうでもないか。単に地図づくりというテーマでは、地味なだけに終わってしまうし、題材の料理の仕方が実にうまいんだわ。
普通なら、地図なんて見るにしても作るにしても、何が面白いんだか、という話なんですよね。これは作中の登場人物のほとんどもその考えで、地図というモノになんら関心がない。傭兵のダールにしても、護衛騎士のダルヴにしても、味方にしてもリーナが地図なんてものに傾倒していること自体が不思議な事のように見守ってるわけです。
ところが、リーナを通して見る<地図>というものは本当にこれ、宝物のように魅力的なんですよね。【宝島】の昔から、地図というのは財宝の隠し場所が記してある、なんて理由からだけど、夢と冒険が詰まった特別なアイテムだったわけです。
リーナの地図は別に財宝の在り処が隠されてるわけじゃないんですけど、でも見たことのない土地の見たことのない様子を、自分で歩いてみることで、自分の目で確かめることで、白紙の地図が埋まっていく。世界が広がっていく感覚。その白い部分を眺めることで、まだ見たことのない土地に、世界に想いを馳せてしまうこのドキドキと胸が高鳴るような感覚こそ、まさに冒険そのもの。
自分の眼の見える範囲にしか興味も関心もなく、自分の足元をしっかりと見定めることで戦場を渡り歩きながらも生きてきた傭兵のダール。地図にも冒険にもなんの関心もなかった彼が、ふとした瞬間、リーナのまだ大部分が白紙に過ぎない書きかけの世界地図を目にしたことで、リーナが見ている世界、リーナが求めている世界、リーナが叶えようとしているでっかい夢がどんなものかを、一瞬共感するんですよね。
んで、いいな、と思う。この地図が完成するのを見てみたいと思う。地べたを這いずって生きてきた夢を見ない男が、そんな心境を抱き、胸を高鳴らせる。いやあ、柄にもなく読んでるこっちまでワクワクしてしまう、得難い名シーンでしたよ、ここは。

リーナが面白いのは、彼女が作る地図には二種類あることでしょうか。専門家顔負け、というかこの世界の中ではきっと彼女が最先端を行っているであろう測量技術を駆使した精緻な地図作り。こちらは軍事や統治、区画の整理、住人の利用にも活用される実用的なモノ。作中でも触れられてますけど、寸法・距離まで精緻に記された地図というのは政治的にも軍事的にもとてつもない価値を持つものなんですよね。王様だって、別段娘の道楽のために地図作成を命令したわけではないのです。まあ、別の思惑もあったようですけど。
それとは別に、彼女が面白いなあと思うのが、もうひとつ並行して子供の落書きみたいな地図も作っているところ。店や特徴的な建物、其処にいた人や種族や出来事のイラストを書き込むことで、上記したような正式な地図とはまったく違うものになってるんですよね。その地図を見ただけで、そこがどんな場所か容易に脳裏に浮かんでくるような、ポップで楽しくなるような夢の詰まった地図。客観の地図に対して、主観の地図。見たもの聞いたものをそのまま詰め込んだ、世界の縮図。
ある意味、ガイドブックみたいなものかもしれませんね。

その双方を、それこそ夢中になって作り上げていくリーナ。その姿を追っているだけで、こっちまで地図作りの楽しさに引きずられていってしまうわけです。少なくとも、そんなリーナを夢ごと守ってやろうとするダールたちに共感する。
テーマだけみたら、ほんと地味だし、もともとこの作者、書く話もけっこう地味なんだけど、いや、実際この作品もだいたい地味っぽいんだけど(苦笑
でも、地味でありながら、まさに一級のエンターテインメントとして仕上がっているのは、見事としか言いようがない。
地図作りの背後で蠢く陰謀あり、ダンジョン探索の冒険あり。とファンタジーとしての要素は十分詰め込んでありますしね。
なにより、王女でありながら超庶民派。王族としての高貴さと、下町育ちかと言わんばかりの市井に馴染んだ姿を併せ持ったリーナというヒロインはなかなかの魅力の持ち主でした。

あのひとつ上の姉姫さまが彼女の向ける感情って、対抗心だよなあ。嫌い嫌いと言う割には、言うほど嫌ってはいないように見えるし。まあ、プライド高いし、慣れ合うつもりはなさそうだけど、しっかりリーナのこと認めた上で、ライバル扱いしているように見える。
捻くれてるし、痛い事を痛いと訴えず自分を突き詰めて楽しむことを知らなさそうな面倒くさそうな性格だけど、けっこう好きだな、この姫様。

続くのかしら。綺麗に終わっていると言えば終わってるし、ダール関係もネタや世界地図の作成の観点からも、続けようと思えば続けられそうだし。
出来れば続いてくれたら嬉しいなあ。