“文学少女”見習いの、初戀。 (ファミ通文庫)

【“文学少女”見習いの、初戀。】 野村美月/竹岡美穂 ファミ通文庫

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いや、まいった、これは正直、驚きだった。ごめんなさい、いまさらこの作品を続けてどうするんだと、蛇足じゃないかと思ってました、すみません。
半眼で読みはじめて小一時間、瞠目している自分がおりました。

蛇足だなんて、とんでもない。菜乃という新たなキャラクターの存在こそ、この物語における主人公であった心葉という少年を儚くか弱い未成熟な卵から、一人で立てる大人の男性に成長させる、最後にして最大のファクター。完成へと至る物語そのものじゃないですか。
まさか、遠子先輩が去ったあとに、菜乃みたいな子を心葉の前に飛び込ませるとは。やっぱり、作者もあのままの心葉くんではまだ足りない、と思ったんだろうか。思ったんだろうな。でなければ、これほど完璧な配役を心葉くんの世界の中に放り込もうなんて思わないだろうし。

怯え、逃げ惑い、必死に目を逸らし、俯いてやり過ごそうとしていた日常から、友人たちの、ななせの、そして遠子先輩の導きにより顔を上げ、歩き出すことを始めた心葉くんだけれど、それはまだ、一人で歩けるようになった、というだけなんですよね。
この子には、まだ決定的に足りていない部分があるわけです。そこが補われなければ、この子はまだ、きっとどこかで躓いたときにそのまま動けなくなってしまう。いや、誰かに手をひかれて立ち上がることはできるかもしれないけど、自分でたちあがることは難しいようになってしまう。援けを得られるかもしれないけど、それはまた、多くの周りの人たちに多大な労をかけることになってしまう。周りの人に迷惑をかけることは決して悪い事じゃないけれど、迷惑をかけるばかりの人間というのはやっぱりよくないんですよね。助けられるばかりではなく、助けられる人間にならないと。守られてばかりの人間じゃなくて、守ることのできる人間にならないと。傷つけるばかりの子供じゃなくて、癒してあげられる人間にならないと。
今の心葉くんは、一人で歩けるようになったけれど、まだ自分も自分以外の人も傷つけることしかできない未成熟な子供から脱却しきれていないように思えるのです。
そんな彼の前に現れた。底抜けに明るくて、闇を持たなくて、負の感情にむしばまれていなくて、はた迷惑で、強くて、眩しくて、でも弱くて、進むべき道を知らなくて、どこまでも引っ張っていってくれそうな強引さと、引っ張って貰わなければどこにもいけなさそうな戸惑いを併せ持った、後輩の女の子が現れてしまったわけです。
この子は、今まで心葉くんが接してきた多種多様な人間の中にもいなかった、彼が関わることのなかったタイプの人間で、だからこそきっと遠子先輩だけじゃなく、ななせや芥川や麻貴先輩、そして美羽では決して変えられない部分を、心葉くんに与えてくれるんじゃないかと思うのです。
これは、物凄い縁ですよ。きっと、彼女の初恋は叶わないものなんでしょうけれど、この出会いは心葉くんにとって間違いなく、決定的な、ある意味においては致命的と言ってすらいいかもしれない、重大なものになるに違いないと確信するところなのであります。
あの、彼の最後のセリフからも、ね。

菜乃も、過去にまるっきりなにもない平穏に過ごしてきた子、というわけでもないんでしょうけど。少なくとも、友達の瞳関連で、なにかありそうだし。


ななせは、振られてきっちり終わってしまったあとにも関わらず、苦しい想いにまだまだ振り回されてるんだなあ。なんとかしてくれ、ほんとに。可哀想だわ。

それより怖いのは美羽だけど。彼女のコノハへの執着は、実は全然収まってなかったあたりが、素晴らしい限り。順調に芥川くんとの仲は育んでいるにも関わらず、コノハへのあの考え方は、いやはやおっとろしいばかりで。素敵です、ミウさん。

うん、もしかしたら本編よりもこの外伝、好きかもしれん。どこか遠くに感じていたこの物語が、登場人物たちの心情の在り方が、グッと手元に近づいてきた感がある。心葉くんだけじゃなく、ななせや麻貴先輩、美羽に至るまで。この菜乃という子が関わることで、繊細なガラスの灯篭のうえでゆらゆらと揺らめいていた幻影めいたものが、日の光を浴びて肉感を得たような、そんな感覚。この菜乃ってこの介入による化学反応、凄いわ。