とぅうぃっちせる! (電撃文庫 い 2-10)

【とぅ うぃっち せる!】 一色銀河/ひづき夜宵 電撃文庫

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いやいや、英語の教科書に日本球界におけるFA制度の現状についてがそんなに熱く語られてるわけがないって!(笑

と、きっちり野球ネタが入っているところに妙な安心感を感じてしまったのですた。

しかし、作者もデビュー作から既に9年。新旧交代の激しいライトノベル業界ではベテランと呼んで過言ではないんですよね。代表作はあの野球小説だし、冊数自体も多く出してない。なまじ、あの【若草野球部狂想曲】が傑作だっただけに、その後方向性について迷走してしまった感もあるのですが、こうしてこの新作読むとねえ。伊達にベテランじゃないなあ、とうならされるわけですよ。
学園魔女っ子TSモノとくれば定番も定番のネタなんだけど、昨日今日デビューしましたって人の作品に比べると、やっぱりこう、なんだ。巧いんだ。それも小手先の小賢しさとは別格の、最初から最後まで実に調和のとれた流れの心地よさが、素晴らしく気持ちいい全体の構成力。読んでる途中に変なストレスを読む方に加えない、スラスラと読める淀みのない筆調。
改めて思うんだけど、【若草野球部狂想曲】は野球小説という目新しさゆえに面白かったのではなく、この人が書いた小説だったから面白かったんだよね。得意の野球ネタがガンガンパワフルなエネルギーを発していたのも確かなんだけど、単純に小説としても面白かったもんなあ。

この作品が面白いのは、巷の同系列の話が主に主人公がヘタレでダメダメというパターンが多いのを逆手に寄るように、ヒロインの方に多大な問題アリ、というところでしょうか。
あがり症で赤面症。人見知りで弱虫で臆病でヘタレで自分に自信がなくてコンプレックスの塊、と。
前に進めず顔を上げることもできず、自分でせっせと作った籠の中に閉じこもり、耳をふさいでイヤイヤと首を振って泣いているばかりの女の子。
……めんどくせー。
そう、ぶっちゃけ友達付き合いするのもめんどくさい子なのです。作中でも、主人公の友人がきっぱりと明言しています。あれは、面倒くさいぞ、と。
その面倒くさくてどうしようもない女の子と、止むに止まれぬ理由から凄く身近なところから付き合うことになる主人公。
うん、お節介でお人好しというスキルは、主人公に必須のものと言えるのですが……この主人公のそれは、おしつけがましくないし、自然だし、とてもスマート。外国では、生活弱者に対して何かと手助けすることはとても普通の事で、日本のように手助けする側もされる側も構えることがない、と言いますけど、遼平のはまさにそんな感じだったりするのです。
特に遼平の身にドえらいことが起こる前の、ヒロイン・エステルのごみ捨てを手伝うところなんか、ほーと見惚れるくらいに。
お節介だの、親切心だのというものではなく、きっと善意というほどの自覚もなく、本当にそうすることが自然という姿勢で、他人とうまく付き合えないエステルを手伝ってるんですよね。エステルがあがってしまってまともに対応できないでいるのにも、困ったり戸惑ったりせず、自然に落ち着かせるように言葉を選んで、エステルが負担に感じないように対応するわけです。書いててどんな気障男くんかと思ってきましたけど、そういうんじゃないんですよ。普通の女の子が大好きなエロエロの思春期の等身大の男の子のまま、そういう姿勢でエステルみたいな子に接することが出来るんだから、この主人公はとびっきりの逸材ですよ、うん。
……実はモテモテじゃないのか、こいつ。

その後も、躓き、素っ転び、うずくまり、挫折しまくるヒロイン、エステルに対して、一番傍から応援し続ける主人公。そう、応援、っていうのが一番しっくりくるなあ。
それも、やっぱり押し付けがましかったり、強引だったり、変に信じ込んでたりするんじゃなく、エステルという子がどんな子なのか、ちゃんと見て、ちゃんとわかって、理解して、受け入れてた上での、優しい応援で。
正直、エステルって根性ないし、本気でヘタレなんだけど、素直で純粋な子なんですよね。そんな子が、こんな風に応援されたら、そりゃ挫けたまんまじゃいられないですよ。逃げられないですよ。

いや、これは実に読み応えがあって面白かった。ラストもまた、続けたら面白そうな展開に転がしてましたし、ぜひぜひ続編やってほしいところです。