スイート☆ライン (電撃文庫 あ 13-26)

【スイート☆ライン】 有沢まみず/如月水 電撃文庫

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力こそパワーッ!!
と、なんか意味不明なことを口走りたくなるほど、この作品に出てくる登場人物たちのエネルギッシュなこと、エネルギッシュなこと。
いやあ、これだけ活力にあふれた人たちの姿を見てると、なんか圧倒されちゃうよね。でも、それが圧迫やプレッシャーにならないのが、有沢まみずという作家の絶妙のサジ加減、というところか。
コミカルな雰囲気でこのハイテンションな熱量をマイルドにしている、というのはむしろ表層的な部分の話で、面白いのは主人公にしてもあの大物プロデューサーにしても、自分自身が発している暴力的なまでのエネルギーを、実のところ完全に理性のもとにおいて制御しているところなんですよね。その熱量の起源から方向性、その活用法まで驚くほど完全に掌握し、コントロールしている。
有沢まみず作品の主人公の多くにこれは共通するところで、奴らが完璧超人だと思うのは、こういうところなんですよね。やつら、自分という人間の最適な使い方というのを非常に論理的な形で(感覚的ではない、というところがみそ)理解し、手のうちに入れている。
こういう輩は強いですよ。油断も隙もなく、あれよあれよと徹底した形で目的を達成してしまう。
この物語の主人公である花沢正午は、ある意味その究極的な形の一つなのかもしれない。
この男、熱血であり、情熱と感情を原動力としているものの、その迸るエネルギーによって動き出す行動の論拠となる部分は空恐ろしいほど冷静な理性によって管理され、目的達成までのルートを緻密に構築している。
熱血ではあるが、間違っても熱血バカとは程遠い人種だ。ヒロイン、新島永遠に対しても感情移入すると同時に、客観的な人間観察を繰り返し、姉を含めた周辺の人間に聞き取り調査をすることで、彼女の男性恐怖症の原因などの、目的達成のための問題点を洗い出し、その解決法を検案しているあたり、むしろ周到な人間であることが伺える。
とはいえ、リミットが少なかろうと怯むことなく自らを奮い立たせて立ち向かっていくあたり、情熱の人、熱血の人である事も間違いなく、熱さと冷たさを理想的な配分で内包している人物であることがわかる。
正午の姉ちゃんは、自分の弟の事をよく見てるんだなあ。というよりも、人を見る目がある、というべきか。よっぽど正確に自分の弟の才能を評価していなかったら、自分の将来すらかかったこの懸案を、本来なら無関係の弟に任せようとは思わんだろうに。
無論、不安や心配はあっただろうことは、言動の端々から見て取れる。弟に丸投げしてがんばれー、なんて心境とは程遠いものがあっただろう。でも、任せたからには信頼し、信用し、ドンと構えて待つそのでっかい姿勢。たまんないね。これはこれで、この姉ちゃんからも迸るようなエネルギーが漲ってるのが伝わってくる。
それは、男性恐怖症で野生動物みたいに逃げ回り、怯えた挙句にスタンガンまで取り出すようなマイナス方向にぶっちぎってるヒロインの新島永遠ですら同様なのだ。人見知りで内向的で男性恐怖症、と熱量とは程遠そうなキャラクターに見えるけれど、ところがどっこい。声優という職業にかける思い。そのためには自分のトラウマと戦う事を恐れない、歯をくいしばっても這いつくばってでも前に進もうという激烈な意思。自分に手を差し伸べてくれた正午への信頼感の強さ。そして、正午の応援魂に火をつけ、聴く人の魂を奪い去り、天才を山ほど見てきたプロデューサーや同業者をものけ反らせる、その声の演技の才能のぶっぱなされる瞬間。そのどれもが、他のキャラクターに負けないほどの活力に満ち溢れていて、自己の存在感を主張するパワフルなエネルギーが漲っている。
他にも、ライバルであり友人でもある同じ世代の声優少女たちの雌伏された想いといい、どこを見てても中てられるような躍動的な活力に満ち満ちていて、なーんか読んでるこっちまで元気になってくる感じですよ。

恋愛パートに関しては、今のところあくまで正午は永遠のことを応援し、その才能を存分に発揮させることばかりに頭が行っていて、彼女たちが自分たちに向ける感情の変化には、まったく注意を払ってないので、まだまだ動き出す前の段階ですけど、決して鈍感というわけではないみたいですし、女の子たちの方も既に鞘当てが始まっているみたいなので、続いたら面白いことになりそうなんだが。