恋のドレスと宵の明け星―ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (コバルト文庫)

【ヴィクトリアン・ローズ・テーラー 恋のドレスと宵の明け星】 青木祐子/

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うわぁ、もうずぶずぶなまでにクリスはシャーロックに夢中だなあ。ちょっと前まではクリスが腰が引けていた分、シャーロックの必死さが際立ってたわけですけど、今となってはクリスの方が歯止めが掛かってないぐらい。ただ、以前はクリスはシャーロックとの身分違いの恋に期待しないようにしていた分、耐久力があったような気がするんだけど、お互いの気持ちが通じ合ってしまった今となっては逆にクリス、打たれ弱くなっちゃってるなあ。手紙の内容が以前よりも短くなったとか、忙しいからとなかなか会いに来てくれないとか、些細な事で大いにへこみ、不安がり、ウジウジと悩みだす始末。まさしく恋する乙女そのままですけど……正直、うざい(苦笑
パメラ姉さん、クリスを傷つけないよう不安がらせないよう壊れモノを扱うように慎重に励ましていらっしゃるけど、なんだかそろそろいい加減うんざりきてるんじゃないかと思ってしまうんだが、むしろパメラ大丈夫か、と心配になってしまう。挙句にドレス作れない! ときたもんなあ。

シャーロックはシャーロックでクリスの心を開き、自身の結婚問題に決着をつけた気になっているので、クリスの不安など気づきもせず、気を大きくしてしまってるし。まあ、この貴族様にクリスみたいな繊細な子の乙女心を分かれ、と言う方が無理なのかもしれないけど。
いや、でも最後にちゃんと問いただしたのは偉かったと思うぞ。彼なりに成長したのが伺える。成長したというか、クリスの扱い方が分かってきたというべきか。まあ、その前にとんでもない無神経ぶりを発揮してしまうあたりが、彼らしいというところなんですけど。あんたのそれは、あんたの母親よりも性質が悪いよ。自覚症状がまるでないあたりがさらに始末が悪い。
あの場面、クリスがきっちりシャーロックに向かって自身の抱える不安や怯え、本音を隠さず逃げずに全部吐露してみせたのは、驚きだったなあ。今までのクリスの性格だと、ぜったい自分ひとりで抱え込んじゃう場面だったのに。それだけ、シャーロックに心を開き切っているということか。今回は、クリスのシャーロックへの一途さが際立ってたし。ジャレッドのアプローチに対しての対応なんか、付け入る隙がまったく見当たらないものでしたしねえ。
しかし、ここまで是非もなくシャーロックの言う事をきこうとするところなんか、どう見ても愛人気質な気がするんだけどなあ(苦笑

ところで、今回のクリスのドレスづくりへの姿勢を見てると、色々彼女のドレスに対する見方に対して認識を新たにしなければならないと思わされる部分がありましたね。ドレスを作る際には着る本人に直接会い、話をした上で今のその人に一番あったドレスを作る、という製作過程を踏んでいるクリスですけど……。彼女って本当の意味ではお客さんのこと見てないみたいなんだな、これ。もし、本当に彼女がお客のためにドレスを作っている、自分が客商売をしているという認識があったら、今回みたいなお世話になった人の仕事を、作れないからと断って、場合によってはその人の邪魔や迷惑になりかねない人のドレスを、此方は作れそうだから、と手がけるなんて真似は、やってしまうにしても多少頭を悩ませる部分があると思うんだけど、本人、その問題点についてはまったく認識しようとしてなかったし。パメラが頭かきむしるのも無理ないわ、これ。
クリスにとっては、あくまでドレスことが主になるのか。この姿勢は、職人と言うよりも芸術家に近いものがあるように見えるんだが。この姿勢なら、もしクリスのドレス作りに対する渇望の方向性が闇のドレスを指向したら、作らずにはいられなさそうで、ちょっと危なっかしく見えてしまう。
この彼女の気質に気づいている人がはたして、彼女の身近な人間にいるかどうか。パメラは聡いから、今回の一件で徐々にでも気づきそうなものだけど。むしろ、闇のドレスに関わる連中のほうが、クリスの危うさには気づいてそうで、なかなか怖いところ。
今のところ、クリスとシャーロックの関係は薄氷の上とはいえなんとか上手く回っているけど、前途はあらゆる方向から多難ばかり。さて、未来に希望はありやなしや。