秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

【秋期限定栗きんとん事件(上)(下)】 米澤穂信 創元推理文庫

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この子、他愛ないなって


小山内さん、まじ鬼畜!!(w

腹黒いとかいうレベルじゃないでしょ、これ。どう考えてもこれは、人でなしと呼んで過言ではないレベル。人を人とも思ってない小鳩くんと二人、これはマジ人でなし。この二人が一度、ドロップアウトしてしまったのは自分たちがまともな人間の集団に混じ入るには、あまりにまともでなさすぎたことへの自覚が足りなかったってことになるのか。
反省した二人は、自身の狼であり狐である本性を否定して協力してお互いを戒め合うことで子羊たる小市民になり切ろうとしたものの、狼さんや狐さんが無垢な子羊さんになれるわけがなく、お互い自分の凶悪な欲望を抑えきることを放棄してしまい、結局戒めであった互恵関係は邪魔な鎖となり果てて、二人は別れざるを得なかった、というのが前回までの展開、となるわけだ。
つまるところ、前の夏季限定の段階で小山内さんも小鳩くんも、小市民になろうとするのは既に諦める、というかポイして地面に叩きつけてグリグリと靴底で踏み躙ってしまってたんだな。
それでも、狼と狐の本性を剥きだしにすれば、子羊の群れたる普通の学生生活からははじき出されてしまうのは経験済み。とはいえ子羊になるのは無理だと判明。だから、それぞれ慎重に羊の皮を被って、そう、普通に彼氏彼女なんか作ったりして、羊の群れの中で息を潜めていたわけだ。
ところが、羊の皮を被るという処世術を身につけたものの、どうにもそれでは獣の欲望が満たされきれず、ジリジリと欲求不満がたまってきた所で、連続放火事件なるでっかい獲物が転がってきたわけだ。

小山内さんと小鳩くんの新たな関係というのは、以前の互恵関係とは明らかに違うのがまた恐ろしいんですよね。前のそれは、お互いの本性が剥き出しにならないように押し殺し合い、戒め合う拘束の関係であり、監視しあう関係だったわけですが、今回新たに結ばれたそれは、明らかにそれぞれの本性を肯定し、よりよくお互いの欲求を満たし合い、より最適な形で叶え合うために結ばれた、本当の意味での互恵関係になっている。
まともな人たちからしたら、最悪ですよ、これ(苦笑
羊の皮を被るという知恵をつけた獣たちが、さらに協力しあうことでより巧妙に、より効率的に餌を食い散らかす体制を整えたってことなんですから。
瓜野くんなんか、あの視野の狭さ、傲岸さ、一度健吾に自身の性格の危険性を指摘されているにも関わらず、まるで省みることなく増長して短慮を繰り返していたあたり、まったく同情の余地なく自業自得なのですが、それでも小山内さんのやり口は、鬼畜外道以外の何者でもないんだよなあ。いやでも、彼女が途中で方向転換した理由を彼女の口から聞かされると、そりゃあ仕方ありませんな、と苦笑してしまったわけですけど。

小山内さんと小鳩くん、完全に戒めから解かれた状態ながら、二人それぞれ個別に動いていて、この有様ですから、二人が再び、いや新たな互恵関係を結んだ状態で動き出した場合、それほどの目を覆わんばかりの惨劇が繰り広げられるのか。想像するだに恐ろしくも、怖いもの見たさで読んでみたくて仕方ないのが心情というもの。
次回はいつになるかわからないけど、じっくりと震えながら待つ所存。


しかしこれ、小山内さんと小鳩くんの関係に、恋だの愛だのという感情はあるのかしらねえ。本人たちがサバサバと割り切っているほどには、利害関係だけの乾いた関係には見えないんですけど。まあ、二人ともお互い以外の人間を、まともに向き合う関係として認識してないからなあ。唯一無二の対等な関係として、お互いの関係以外に湿度がまるでないからそう感じるのかもしれないけど。二人が認めている健吾ですら、かなり乾ききった関係だし。

その健吾だけど、彼が新聞部というのはどう考えても似合わないよなあ。マスコミとは一番そりの合わなさそうな性格に見えるんだけど。だからこそ、彼が率いていた時代は保守に徹してしまっていたんだろうけど。いったい何があって新聞部なんかに入ってしまったんだろう、彼は。