溺れるようにできている。 (まんがタイムKRコミックス エールシリーズ)

【溺れるようにできている。】 シギサワカヤ まんがタイムKRコミックス エールシリーズ

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タイトルの【溺れるようにできている。】からして、ドロドロの人間関係とか救いようのない恋愛泥沼劇とかを想像していたのだけれど、かなり方向性違ったなあ。
というか、まさしくシギサワカヤの真骨頂というべきか。
登場するキャラクターは鬱屈し、ある種の歪みを抱え、いびつな自分と社会との軋みに苦しんでいて、それこそ陰鬱で互いを傷つけ合うような恋愛モノを演じるに相応しいような人たちなんだけど、この作者は意外なことにそういうキャラクターたちを手厚く遇するんですよね。自己否定の海に叩き落とさず、男と女を剥き合わせ摺り寄せていくことで、相手の目に映っている自分を見つけさせる。どこかコメディちっくなノリによって、キリキリと心を刻みつけられるようなコミュニケーションの痛みが紛らわされて、気がつけばそこには優しい愛が育まれていっている、みたいな感じで。
この作品は、作者の優しい部分が結露したような作品かも。他のはもっと置かれた状況とか、心の荒み具合とか酷いもんなあ。

この物語のカップルである二人も、まー色々な意味でダメな人たちなのです。主人公である所の佳織は内気で引っ込み思案。告白して恋人になった年上の幼馴染(と言っても小さい頃からの顔見知り程度で、幼馴染の語感から連想するほどの親しさはなく)との距離間に悩む日々。毎日会えればいいのだろうけど、東京で働く彼とは片道二時間の中距離恋愛で月に1、2度会えればよし、という環境。自分の自信がなく、自分のダメさ加減にほとほと弱り果てている佳織としては、ほんとに自分なんかが彼とうまくやっていけるのだろうか、彼と恋人なんかでいいのだろうかと悩む日々だったのだけれど……という冒頭から、どうやって愛を育んでいくのだろうと生暖かい眼差しで見守っていたら……。

そうかそうか(苦笑

これは確かに溺れてるとしか言いようがないわなあ。
恋人になって付き合って、一緒に時間を過ごしていくと、眼に付いてくるのは今まで知らなかった相手の色々な側面。良い面もそれはあるんだろうけど、やっぱり気になってくるのは相手のダメな部分なんですよね。
大概にしてそこをきっかけにして擦れ違いが生まれ始め、幻滅が生じ、関係が冷めていく。
相手に夢を見てればみてるほど、それは顕著になるんだろうけど。
この二人の場合は面白いなあ。実に面白い。

いや、もしかしたら実際男女の関係が上手く噛み合っていく過程というのは、こういうものなのかもしれないのですけど。その愛情の育まれ方ときたら格好の良さなんてどこにもなく、すれ違いばっかりで、あれ? あれ? と首をかしげているうちに坂道を転がり落ちるみたいに前に進んで行ってしまって、お互い一生懸命隠していたダメな部分が付き合えば付き合うほど見えて来てしまう、相手のダメな部分、どうしようもない部分が突きつけられて、理想の姿が打ち壊されていくほど、逆に距離を狭めるのに繋がってしまうという、面白いなあ。最初のほわほわとして実体がなく曖昧模糊としていた好きの感情に、実が入っていくのが妙に面白い。
確かに、相手のダメな部分を見れば見るほど好きになっていくというのは溺れてる証拠だよなあ。

それにしても、やることなすこと格好つかないあり様になってるのは笑うよなあ。この辺も、シギサワカヤの真骨頂かw