カラクリ荘の異人たち 3 ~帰り花と忘れ音の時~ (GA文庫)

【カラクリ荘の異人たち 3.帰り花と忘れ音の時】 霜島ケイ/ミギー GA文庫

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君は家に帰るべきだと思う

 捜し物を見つけて欲しいと頼みにくるものや、身体が溶けてしまった雪女。あい変わらず、色々なことが巻き起こるカラクリ荘だったが、太一には別に悩みがあった。
 それは、正月休みに自宅へ帰るべきかどうか――である。
 自宅には、義母・鈴子がいて、会えばまたギクシャクすると思うと、どうも乗り気になれない。

 カラクリ荘の面々がそのまま過ごすと知った太一は、それならば自分も――と考えた。しかし意外にもレンからの反発にあってしまうのだった。珍しく大きく動揺し、怒りをレンにぶつけた太一だったが……。
 ご町内妖怪奇譚第3巻登場!


よくぞ言ってくれました、レンくん!!
いやもう、二巻からこっち、太一の自分の都合のよい方しか見ようとしないその無神経な姿勢には、ずっと腹立たしい思いをさせられていただけに、レンくんのズバッとした指摘には胸がすく思いでした。
いつかは誰かが言わなければならないことだったんでしょうけど、まさか彼がその役を自分から担うとはなあ。レンくんがその身に負った特別な体質からすると、生の感情をぶつけ合う行為は自傷行為そのものだというのに。
逆に言うと、他の空栗荘の面子はみんな年上すぎて、届かないお説教になってしまうのかもしれない。だからこそ、歳の近いレンでなければ届かなかったのか。まあ、他の連中浮世離れしてるからなあ。レンくんみたいな事はどうなっても言わない気もするしw

とはいえ、レンくんの指摘で分かったこともある。今まで、どうしてこんなに太一の在り方が腹立ってくるのかいまいち理解しきってなかったんですよね。それが、レンの言葉で当を得た。
他人とコミュニケーションを取るのが苦手な人、というのは決して珍しくないし、それだけでそのキャラの言動に腹立ってくるなんてことはまずないのですけど。太一の場合はね、相互理解を自分から拒絶している。自分にとって都合のいい、居心地のいい人の方だけ顔を向けて、それ以外からのアプローチは最初から理解する意思すらない。無関心ですらなく、完全無視なんですよね。出来なくてまごついたり、出来ないのに耐えられなくて逃げ出すことに腹は立たないんですよ。最初からやろうともせず、彼に関わろうとする人たちを、そもそも存在しないかのように完全に無視してそっぽを向くようなその態度が腹立ってたんだよなあ。しかも、当人は自分が無視しているという自覚もない。だから、罪悪感も何もない。そう、レンの言うようにそういう態度って、とてつもなく失礼なんですよね。彼に関わろうとする人たちに後ろ足で砂をかけているようなもの。
今、自分が居心地が良いと感じている空栗荘の人たちに対してすら、鈴子さんのクッキーの事件で、自分が無視している領域の方に彼らが寄ってしまうと、なぜ彼らがそう思ったのかを理解しようと考えもせず、その場に立ち止まったまま、彼らの方を異常であるかのように思って狼狽し出す。これって、自分に都合が悪くなれば、空栗荘の人たちですら自分の心から弾き出しかねない所が、太一にはあるという事なんですよね。
レンがこのままじゃいけない、と決意したのも、これは分かるなあ。現実と幽玄の境界である空栗荘ですら、太一がはじいてしまうなら、彼が人の世から完全に逃げ出してしまうのも時間の問題とすら考えられるわけですから。

太一がね、本当に芯からそんな他人の想いや関心を無視して何も思わないような子なら、見ているこっちも腹なんか立たないのです。ただ、太一という子は、本来はとても優しく、他人の気持ちを尊重し、人の想いを慈しみ、誰かが困っているのを決して見過ごせない、自分以外の誰かのために頑張れるとても良い子だというのは、一巻から空栗荘に住まうようになってたびたび遭遇したモノの怪との事件を通じて、よく見えてくるんですよ。
そんな子が、今は人からの気持ちを蔑ろにし、溝にぶちまけるような在り様を、平然ととってしまっている。それが見ていて、無性にやるせなくて腹立たしかったんですよね。
だから、レンの指摘は本当にスカッとした。そして、その指摘を無視するのではなく、反発、怒りという形でも受け止め、自分の中に入れ込んだ太一の姿は、妙に嬉しかったなあ。

太一は、本当に恵まれていると思うんですよ。周りにいる人たちは、彼を見守り、彼を支え、転んだ時はそっと手を差し伸べてくれる、とても優しい人たち。彼らがいるからこそ、太一は一度踏み外してしまった段差を、ゆっくりとはあるけれど、もう一度自分の足で登りだすことが出来たんでしょうねえ。
今、恐る恐るではあるけれども、自分が顔をそむけ、耳をふさぎ、理解を拒み、無視してきた領域に、自分の足で踏みだそうとしている太一。
理解できないと最初から諦めていた他人の気持ちを、采菜や雪女との関わり合いを通じて、徐々に決して理解不能な自分とは縁のないものなんかではないことを知っていく、太一の姿が、うん、すっごく嬉しかったなあ。


しかし、義母の鈴子さん。今まで太一の記憶からしかその姿が見えてなかったんで、後妻らしいかなり気まじめで思い詰める卦のある陰ある女性かと思いこんでたんだが……しまった、忘れていた。これを書いていたのって、霜島ケイさんだったんだよな。
まさか、ここまでブッとんだ人だったとは(爆笑
太一くん、君、他人の事をよく見ていないにもほどがあるぞ。記憶の中にある鈴子さんと、当人とじゃ別人にも程があるだろうw
いや、でもよかった。太一に対して鈴子さん、もっと滅入った感情を抱いていると思い込んでいただけに、これはなんというか、想像以上に上手く行きそうじゃないか。
それにしても、お父さん。あなたの女性の趣味は、素晴らしすぎると思いますよ(苦笑