鉄球王エミリー―鉄球姫エミリー第5幕 (集英社スーパーダッシュ文庫 や 2-5)

【鉄球王エミリー  鉄球姫エミリー第五幕】 八薙玉造/瀬之本久史 スーパーダッシュ文庫

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峻烈なスタートを飾った鉄球姫エミリーも、これにて完結。正直に申しますと、第一巻を読んだ時はここまで面白くなるとは思ってなかったんですよね。ぐいぐいと引き込むパワーあふれた凄惨な描写、容赦呵責のない残酷極まる展開、こそ目を見張るようなものがあったものの、肝心の主役であるエミリーは、物語においての主役として寄与する指針も意志もなにもなく、お下劣でお下品な奇天烈なお姫様という性格以外は、あんまり存在感を感じなかったのです。端的に言うと、暗殺者に襲われ、それをからくも撃退する。この一言に要約されてしまうような話であり、物語と言うより状況描写というような代物だったんですよね。
それが二巻になると、作品の魅力だった野性味あふれた勢いが消え失せてしまい、悪い意味で小さくまとまった作品になってしまっていた。こりゃあ、このままスケールダウンしていくだけかな、と期待もあまり抱かず手に取った第三巻。これが、ターニングポイントでした。ブレイクスルーだった、というべきかもしれません。
一巻二巻でそれぞれ物足りないと思っていた部分。物語としての骨子がしっかと固まり、朱役たちキャラクターの目的、苦悩煩悶の方向性が定められ、その上で一巻で目を見張らされたあのギンギンに迸るパワフルさが舞い戻ったのでした。まさに足りない部分を補ったかのような完成型、どころかそこにとどまらず、さらにこのエミリーシリーズの特徴ともいうべき冷酷非情の展開を、さらに凶悪な形でぶちまけるという、あくまでこの作品はこういう方向性で行くのだという強烈な一手にあっと言わされ、のけぞらされた第三巻。
ここから、このシリーズは完璧に飛躍した、と考えています。

思えば、たった五巻の編成にも関わらずこのシリーズ、尋常でない数の登場人物が死んで行ってるんですよね。その誰もが使い捨てのモブキャラなどとは程遠い、それぞれに信念を持ち、守るべきもの、守りたい人を胸に抱き、国を守るため、約束を守るため、生きるために戦った人たちでした。
そして、無残な形で散っていったわけです。
その悲惨さ、無念さがあまりに残酷で、可哀想で、だからこそ一人一人の死が読み手にも強烈なダメージとなって伝わってくるわけです。
ですが、そんな死があまりに多すぎたからこそ、エミリーの決意。もう誰も死なせない、という必死な想いが痺れるような峻烈さを持って撃ちかけてきたのでした。身近な家族とも言うべき臣下を皆殺しにされ、絶望に撃ち沈んだ自分を救いあげ、希望を投げかけてくれた家族をも殺され、誰もかれもを目の前で失って、打ちのめされ一度は心砕け散ったエミリーだからこそ、その願いには安っぽさなどどこにもなく、神聖不可侵とすら感じられる尊い想いへと昇華されたのでしょう。
ベレスフォード公爵が弾劾したように、エミリーはこれまで常に逃げ続けていました。逃げるのをやめ、希望の光を見せてくれた弟のために戦おうとしながら、その矢先に弟王を暗殺され、またも彼女は現実から逃げました。
そんな彼女が、グレンのために武器を手に取り、戦場にかけつけたとき、彼女の戦いは自分の身を守るためのものではなくなったのでしょう。
そして、いざ戦うと決めた彼女は、自分の周りにいる人たちを守るため、弟の遺志を守るため、王となることを決断するのです。王になったから国を守ろうとするのではなく、守りたい人たちがいるこの国を守るために、王になることを選んだのです。
最初の頃の彼女を思えば、このあり方は目覚ましい限りです。その輝きを得るために、あまりに多くの人が亡くなりましたけど、そのどれもを無駄な死ではなくしたんですよね、エミリーは。
そう、彼女はこの最終巻でようやく、自らの願いを皆とともに叶えるのですから。


主に暗殺劇をメインに戦闘シーンを扱ってきた本作ですけど、もしかしたら4巻からの戦場での戦争場面でこそ、真価を発揮したのかも。戦場シーンの迫力たるや、ほんとに凄まじかった。特に、201ページのそれは挿絵の効果もあって、激燃え。いや、エミリーという人はほんとに戦場映えするキャラですわ。その豪壮さは、圧巻。
何気に感嘆されられるのが、大甲冑というファンタジー要素を、戦場に投入した場合、実際問題どのように扱われるのか、戦闘・戦術的観点から非常によく練り込まれて描かれてるんですよね。
意外とこれって難しいんですよね。実際にないもの、特にファンタジー的な存在を戦争シーンに反映させるのって。それを見事にやってのけてるのだから、いや大したものです。この特徴的なアクションシーン、戦争シーンの迫力は、作者のイマジネーションのこうした密度の濃さにあるんでしょうかねえ。

というわけで、激動の展開ということで個々のキャラ同士が絡み、想いを紡ぎ合うシーンは少なめになってるですが、これ少ないながらにそれぞれ、けっこうイイシーンが多いんですよね。
エミリーのお下品なところとか、グレンの変態なところとか(この二人、どうしようもないという意味では結構お似合いだなw)は置いておいても、エミリーがけっこう恋愛方面で初心で可愛らしい顔を垣間見せてたり、リカードとヘーゼルのラブシーンが妙味だったりと、何気に作者、ラブコメもいけるんじゃないかしらw
そう言えば一巻でも、後アトまで引く、切ないラブシーンあったものなあ。
次回作はぜひぜひそちら方面も増やしてほしい所ですよ。