疾走(はし)れ、撃て!〈2〉 (MF文庫J)


【疾走れ、撃て! 2】 神野オキナ/refeia MF文庫J

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長く延期されただけの甲斐はあったのかな。速攻で実戦に放り込まれた一巻のような劇的な展開はなく、淡々と演習に向けた訓練が続いていく大人しいといえば大人しい展開なのだけれど、これがどうしてどうして――べらぼうに面白い!!
神野さんの作品はけっこうたくさん、というか最近の【あそびにいくヨ】以外はだいたい網羅してるつもりだけど、これはその中でも会心の出来栄えなんじゃないだろうか。
人間関係の醸成、キャラクター描写の習熟という意味では確実に次の飛躍に向けたステップになる回でもあるし、この段階でこれだけ面白いものを読ませられると、物語が激動をはじめるであろう次回以降への期待は膨らむばかりだ。

しかし今回、本気で訓練ばっかりだったよなあ。興味深いというか面白いのは、話自体は主にミズキに重心を置いた形で進んでるし、彼女本人の内心の比重は訓練や演習のことよりも、理宇との仲をどうやって進展させるかとか、上官である虎紅と理宇とが親密になっていくのをヤキモキしながら歯がみしている、という恋する女の子のそれそのままなのですけど、肝心のミズキが何をやっているかというと、ほんとにひたすらに訓練訓練。部隊の先任下士官として、部下たちを怒鳴り散らし、追い回す毎日。時々、虎紅と理宇との間に割り込もうとささやかなアプローチはしてるんだけど、現実として出来てることと言えばそれくらい。それどころか訓練方針の食い違いを巡って、理宇と大ゲンカまでしてしまう始末。まあこの喧嘩自体、発端はお互いがお互いの事を心配したのが変にすれ違ってこじれてしまった、というところなんだけど。
現実としてミズキは、ほんとにろくに行動に移せてないんですよね。現実問題として、理宇もミズキも青くさい恋模様なんてやってる暇が物理的にないってことなんだろうけど。心の中では盛大に青春に花を咲かせ、乙女心を羽ばたかせ、恋心を高鳴らせているだけに、それらをまるで行動に移せないほど忙しいってのは、大変だなあと同情してしまう。若いのにねー。
単純に積極的アプローチしているということなら、加藤教官の方が実にアグレッシブだったと言えるかもしれない(笑
そしてそれらをことごとくぺちゃんこに叩き潰していく伊達教官の鬼のような鈍感振りには、苦笑いを通り越して顔がひきつったけどさw
あれはそのうちマジでブチ切れた夏ちゃんに殺されるぞw 読んでる途中、いつ加藤教官がプツンくるか、ひやひやものだったし。

そして、進展と言う意味では、むしろ理宇とミズキ&虎紅のヒロインズの距離よりも、ミズキと虎紅という理宇を巡る恋敵同士の距離の方が縮まってるんですよね。
単なる恋敵として接する以前に、ミズキと虎紅は理宇が間に介在するとはいえ同じ部隊の部下と上官の関係。大演習に向かって訓練に忙しい日々では必然的に恋の鞘当てで激突するよりも、部下と上官として接する機会の方が多くなってくるわけです。そうなってくると、目の当たりにしてしまうのは虎紅の上官としての優秀さ、公平さ。自分の至らなさやミスを嫌味にならない形でフォローし、一度はこじれてしまい掛けた理宇との人間関係も、放っておけば恋敵としては有利なはずなのに、実に心憎い配慮で瞬く間に修復してくれたりなんかりもして。予断を排せば、虎紅という少女はミズキのような兵隊にとって得難い、頼りになる、信頼できる、信用もできる、云ってしまえば命を預けるに足る素晴らしい上官であることを否応なく思い知らされてくるわけです。
そうして、虎紅という少女への恋敵としての敵愾心を取り除かれてみると、ふとした瞬間に彼女を上官としてではなくただの自分と同世代の(ちょっと年上だけど、見てくれは思いっきり年下だし)女の子としての他愛もない仕草や、可愛らしい素顔なんかも見えてきてしまうわけです。
憎き恋敵だった少女の、あどけない寝顔なんかにキュンとなっちゃったりとか(笑

三角関係がいい意味で発展するのって、まさしくこういう形なんですよね。一人の異性を頂点とした二等辺三角形ではなく、異性同性の区別なく、三人が等距離で三角形を結ぶこの正三角形の形こそが、三人が三人のまま上手く収まるスタイルなわけです。
今のところ、見事にその方向に進んでますね、この三人(笑

もうひとつ気になるのが、深冬と佐武の分隊長組かな。この二人のすっごく落ち着いた雰囲気が、物凄い好みです。二人ともすごく大人っぽいからか、気持ちの繋がり方も大きく波打つのではなく、そっと寄り添っている感じで。このまま、いい形で発展していってくれたらなー、と思ったり。
ただ、この作品、あくまで戦争モノなんですよね。二人がいい雰囲気になればなるほど、あとがちょっと怖いんですけどw

しかし、軍隊モノはやっぱりこうじゃなくっちゃねー、とかみしめるように思ったり。雑談の会話ですら、兵に聞かせるように考えて喋り。士官は常に試されてたり。下士官は恨まれてなんぼだったり。
訓練訓練また訓練。実戦で死なないために、死ぬ可能性を少しでも減らすために、ひたすらに訓練訓練。
くぅー、これこれ。沁み渡るネ!(なにがだ(苦笑