有川夕菜の抵抗値 (電撃文庫)

【有川夕菜の抵抗値】 時田唯/りちゅ  電撃文庫

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凄いなあ。みんながみんな、本気で必死だ。この必死さを青春の一言で片づけてしまうのは少し横暴じゃないかと思うくらいに、皆が皆後のない思いで切羽詰まったまま突っ走っている。追い掛ける足を止めてしまえば、抵抗する手を下してしまえば、そこで何もかもが終わってしまうという恐怖感に苛まれながら。
なるほど、恐怖感だ。結局のところ、夕菜や会長たち子供たちにしても、有川母や校長たちといった大人たちにしても、絶望を前提とした恐怖感に追い立てられながら、それを払拭するために必死に、本当に必死になってそれぞれの想いに全力を投じている。だからこそ、この作品全体に切羽詰まった感が敷き詰められ、息の詰まるような緊張が張りつめ続けているのだろう。

はっきり言ってしまうと、会長たちのそれは完璧に代償行為だ。同じパララーザーというだけで、茜と夕菜はまったくの別人格、別の人間だというのに、夕菜が転校してきた当初の会長や千春の彼女への接触の仕方は、茜に対して失敗してしまった事を、夕菜でやり直し償おうとしているに過ぎない。
夕菜は、パラライザーとして幼い頃から傷ついてきたせいか、積極的に関与してくる会長たちの行動にパニックになっていて、自分が代償行為の対象とされていて、パラライザーとしての自分ではなく、夕菜という一人の女の子として見られていないという点については、最後まで気が付いていなかった風だけど。でももし、彼女に冷静に接触してくる彼らとの関係を見直す余裕があったら、けっこうこれ傷ついたんじゃないかなあ。
茜と夕菜を同一視している件については、会長は散々作中でも弾劾を受けてるわけだけど、確かにそののちアプローチの仕方こそ改善するものの、そもそもの前提が代償行為なだけに、パラライザーという要素を取り除いたところでの、夕菜と会長、千春という踏み込んだ人間関係は、結局最後まで描かれなかった気がするなあ。それはこの作品の主題において、余分なことだったのかもしれないけど。

パラライザーという存在の危険性を思えば、校長の言ってることって概ね正論なんですよね。退学までは極端にしろ、その症状を伏せたまま転校させた有川母の行動は、ちょっと危険すぎるきらいがある。少なくとも、入学させた時点で学校に真実を説明して、対応を練るよう要請しておくべきだったんじゃないだろうか。幾ら当人が気をつけているとはいえ、学校側が事態を認識していなければ、不用意な事故が起こっていてもおかしくなかったわけだし。
とはいえ、先生たちと有川母の、生徒の安全を想い、娘の生存権を願い、教育の可能性を信じ、それぞれが真剣に、必死になって本音を叩きつけ合い、意見を交わしていくこの対談は、子供たちの必死のぶつかり合いと同じくらいに見応えのあるものだった。
特に先生たちの建前論や決め付けにこだわるでなく、校長や教頭、担任の先生たちの真摯で懸命なあり様にはちょっと感動すらあった。

代償行為の件など、色々と考えると難しい点も多々あるわけだけど、この必死で一生懸命にぶつかり合う作品の姿は、読み終えた後得難いまでの清々しい感動を与えた貰ったわけで。
うん、これは素晴らしかったと言う他ないんだろうね。