その日彼は死なずにすむか? (ガガガ文庫)

【その日彼は死なずにすむか?】 小木君人/植田亮  ガガガ文庫

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うん、これは面白かった。一応これ、人生をもう一度やり直す話になるんだけど、過去での選択をやり直して失敗を取り戻していく、というタイプではないんですよね。確かに、隣のお姉さん関連で何度か未来への軌道修正は図ってるけど、それくらいか。主人公の鋼一の過去修正については殆ど行っていない。まあ、彼の人生、まったくイベントも起こらないまま17歳で巻き込まれた事件で終わっちゃうわけだから、いちいち修正するような過去もなかったから、と言えるんだろうけど。おかげで、10歳から人生やり直すことになって、ロシア人のハーフの転校生、ソフィアと積極的に関わる決心をすることで、リテイクの最初に今まで歩んだ人生から大きく舵を切ってしまうので、過去の失敗を未来の経験や知識で修正していくという話にはならなかったわけだ。
彼がこのやり直しの中で未来を掴むために扱うのは、経験や知識でなく、小さな勇気。臆病さや気弱さで踏み出せなかった小さな一歩。
この辺は物凄い好みだったなあ。繊細な心の動きや感情の揺らぎ、なんかひどく共感できるような心情が、丁寧に丁寧に描かれていて、とても好感が持てたんですよね。人の感情や考え方というのは、自分本人ですらちゃんと掌握できないようなものだから、それを相手に伝えること、感じてもらうことってとっても大変で難しいものです。だから、すぐに二の足を踏んじゃうし、諦めてしまう。表面上の付き合いで安心してしまう。
でも、一歩を踏み出した主人公はその小さな勇気を二度と忘れず、何度もめげたり逃げ腰になりながらも、一生懸命自分の気持ちに嘘をつかず、相手に自分の心情を伝えようとするんですね。その勇気は相手にも伝わっていって、この子たちは本当に一生懸命に、相手に対して真摯に向き合っていくわけです。そのどこか健気さすら感じさせる一生懸命さが、実に良かった。
けっこう読んでると粗も目立ってたんですけどね。ソフィアにちょっかい掛けてた男の子は、その後完全に放置されちゃったし(てっきり恋敵になるとか、後々親友になるという展開があるかと思ってた)。他の二人の女の子を繋ぎとめることになるソフィアの立ち位置の立脚のさせ方が、投げっぱなしだったり。せっかく七年近くまき戻ったのに、しっかり描かれたのは最初の一年ぐらいだけだったり。小学生編、中学生編、高校生編とみっちり書けば恋愛モノとしてももっとドラマティックになったかもしれないのに。とはいえ、一冊にまとめようとしたら必然的にこうなるのも仕方ないところか。

なんにせよ、肝といえるソフィアの可愛さ(嫉妬混じりのグチャグチャの感情に振り回されて、泣きまくる彼女は、正直反則だったw)に、ナビ役のマキエルとの友情物語と、十分以上に立ってたわけだし、全体の動きから細部のそれぞれのエピソードと、総じてたいへん面白かったです。
これで、構成から細かい部分まで洗練されてきたら、かなりのものが出来そうな予感も。これからの成長にさらなる期待を抱いています。