花守の竜の叙情詩 (富士見ファンタジア文庫)

【花守の竜の叙情詩(リリカ)】 淡路帆希/フルーツパンチ 富士見ファンタジア文庫

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参ったなあ。これは参った。
人の醜さを目の当たりにし続け、人間を嫌い疎み、妹であるロザリーだけを愛し拠り所にしてきた王子テオバルトと、王女としての日々にただ耽溺し、無知のまま生きてきたエパティーク。
国を滅ぼされ虜囚となった姫君と、周囲を疎み疎まれ国に居場所のない王子。亡国の王女と侵略国の王子。お互い相容れぬ関係でありながら、王太子の謀でともに旅をする羽目になった二人。
互いの愚かさ、人間性の欠如を目の当たりにしながらの旅は、二人の仲を狭めるどころか憎しみと侮蔑を膨らませ、怖れと拒絶を募らせていくばかり。それが、変わっていったのは、やはりエレンが旅路に加わって以降のことでしょうか。二人の身分をカモフラージュするために、人買いからかった幼い娘。まだ5歳にも満たないこの聡くも健気な少女を通すことで、お互いに抱いていた固定観念が徐々に崩れ始め、崩れた隙間から本人たちもすらが忘れ、遠ざけていたテオバルトとエパティーク、彼と彼女が本来持っていた人としての眩い輝きを、二人は垣間見始める。
徐々に変わってくるお互いへの見方。それとともに浮き彫りになる、今までの自分の生き方への悔悟。それを踏まえてそれぞれの心に宿り出す未来への意志。その意味が根底から覆り出す旅の目的。

出会ったがゆえに、それまでの歪み蹲り周りから目を逸らした虚しい生き方から脱却し、それぞれが備えていた人としての輝きを取り戻せた。でも、出会ってしまったからこそ避け得られなかったこの結末。真実の愛を知ることが、この結末とイコールで結ばれていたのだとしたら、この二人にとってこの出会いは幸せだったのか不幸だったのか。
本人たちは、幸せだったんでしょうね。本当に愛する人に出会い、これまでの自分とは違う、本当に誇り胸を張れる自分を手に入れたのですから。
それでも、これはあまりにも切ない悲恋だよなあ。
個人的には、ただただ一人の人を想い続ける人生というのは、あまり受容したくないシチュエーションの一つなのですが……今回に関しては最後に彼に願った彼女の想いが、あまりにも強く尊く神聖に感じられて、胸を突かれて……。それが彼女にとっての幸せかはやっぱり分からないんだけど、こればっかりは否定もなにもできないよなあ、とすんなりと思ってしまったのでした。

この作品の特徴は、二人の男女の悲恋を描いているにも関わらず、エレンという少女を介在させることによって、二人で閉じてしまった恋物語にせず、テオとエパティークとエレンによって擬似的な家族を構成、特にエパティークの母性を強調していたところでしょうか。世間知らずな無知で愚かな王女でしかなかった彼女が、強さと勇気と賢明さを掴んでいったのは、恋による力ではなく、むしろエレンを守ろうとする母性からの愛情でしたし、最後に彼女が強く生きる事を選べたのは、やはりエレンがいたからですし。テオも、侮蔑の対象でしかなかった彼女への意識が劇的に変わってしまったのは、エレンに対するエパティークの態度が彼が抱いていた人間そのものへの不信感を払拭するものだったからですし。そう考えると、エレンの存在はとてつもなく重いものだったんだなあ。この幼女、ほんと滅茶苦茶健気なんですよね。パねえくらいに。幼さゆえの愛らしさと、歳不相応の賢明さは、とにかくギューと抱きしめて守ってあげたくなるもので、テオとエパティークの出会いが運命だったとしたら、この二人とエレンの出会いも運命だったとしか言えないんじゃないでしょうか。

できれば、本当に、この三人で家族になれればと、願わずにはいられないのですけれど。切ないなあ。


この絵師さんは、ファミ通文庫の【彼女は戦争妖精】を手掛けてた人と同じ人ですか。この人の絵、目茶目茶綺麗で好きなんだよなあ。特にカラーは別格。今後、もっといろんな作品でこの人の挿絵、見たいところですねえ。