レンタルマギカ  滅びし竜と魔法使い (角川スニーカー文庫)


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全部読み終えたあとにこそ、この表紙は威力を発揮するよなあ。
これは、戻らない日常の風景。これこそ、取り戻すべき宝物の姿。
とりあえず、アディと穂波、喧嘩しすぎ仲好過ぎw 相変わらず、肝心の社長がほったらかしの構図なのであった。

というわけで、<螺旋なる蛇>に拉致された挙句、<協会>から禁忌認定されてしまったいつき。かつてないほどの大ピンチになってしまったわけだけど、そうなってくると極端に難しい立場になってしまうのが<ゲーティア>の首領であるアディリシアになるわけで。魔術結社の首領としての立場と一人の少女としての想いに板挟みになり、苦悩するアディ。でも、そもそも彼女は魔法に身も心も何もかもを捧げた身。彼女がそれを捨てていつきを優先するという事はあってはならない事なんですよね。これは、作中の立場のことを言っているのではなく、アディリシア・レン・メイザースというキャラクターの根幹に基づくお話。アディがここで恋に日和ってしまうと、アディというキャラの魅力そのものが崩壊してしまうんですよね。一人の女としての恋に揺れながらも、魔法使いとして誇り高く気高く生きる姿こそがアディの魅力であり、いつきが憧れる少女の在り方なのですから、それが崩れてしまったらそれはもうアディではないわけです。
でも、ただ単純にいつきを見捨てるなど、アディの心情からしても話の筋立てからしても成り立たないわけで、いったいどう折り合いをつけるのかとハラハラしながら読み進めていたわけですが。
……ま、まいった。参りました。
この女、マジすげえよ。ほんとにすげえ。
魔法使いとしての在り方に徹しながら、女であることを貫いた、凄絶としか言えないアディの覚悟は、衝撃的ですらありました。
正直、状況の打開によってアディが苦悩から解き放たれる方の展開を予想していただけに、まさかアディがあそこまで覚悟を決めるシーンが持ってこられるとは、いやはや感服しました。
彼女が常々意識している、魔神を呼ぶにあたっての代償。既に捧げたモノ、これから捧げなければならないもの。それは彼女を魔法使いとしての限りない高みへと届かせるものであり、彼女を限りなく日常から遠ざけるものになってしまうものです。より、純粋な魔法使いに。
それは、いつきがアストラルの社長を務める中で育んできた思想。想いと合致するものなんだろうか。いつきがアディに抱く憧れに似た憧憬に沿うものなんだろうか。魔法使いでも幸せになっていい。魔法使いを守りたい。彼の願いが、どうかアディに魔法使いと少女の二つの在り方に矛盾しない形で叶ってほしいと願ってやまない。

妖精眼という特殊な力を有していたいつきだけれど、彼の本質であり、彼の本当の力は、それではなかったんですよね。彼の強大な力が奪われてからこそ発揮された、彼がこれまでアストラルで培ってきた力――人と人。本来孤高であるはずの魔法使いたちの繋がりが、いつきのために集い、力を合わせ、ひとつの大きな流れとなって収束していく姿は、以前の鬼祭りのそれを上回る、でっかい感動でした。


フィンは以前は中身が空虚でどこか自働人形じみた青年でしたけど、今回いつきに相対したときの姿は、まるで違って見えました。本人も自覚があるようですけど、願望器であるはずの彼が、間違いなく自分の意思と願いで動き、いつきを救おうとしていた。それは、以前穂波の願いに応えて動いていた時とは、確実に違っていましたよね。
不思議と、<螺旋なる蛇 オピオン>って、根本的なところでは決して邪悪っぽくないんですよね。あの多種多様な系統の魔法使いが集まり、強力している姿は、どこかアストラルと似通った一面を垣間見るのです。
<螺旋なる蛇>がいかなる理由を以って創設されたのか。その根源に関わるものとは誰なのか。幾つか想像、予想はあるのですが……うん、第三部では明らかにされてくるでしょうし、しばらく捏ねまわしておくとしましょう。

影崎さんの正体はほぼ明らかに。いや、それよりも黒羽の対影崎能力の高さは凄いな、ほんとに。この相性の良さは影崎の正体と黒羽が幽霊という事に通じるのでしょうか。まあ、黒羽の性格と聡さが大きいのは間違いないのですが、影崎のあの一目の置き方は不思議なくらいなんですよね。いや、あんなズバズバ無色透明なはずの黒崎の本質の中に切り込んでこられては、一目置かざるをえないか。彼が脱ぎ捨てたはずのものを、彼女は容易に見つけ出し、突きつけてくるわけですから。
面白いなあ。幽冥の存在である黒羽が、ある意味では影崎を現世に繋ぎとめるような関わり方をしてるようなもんだもんな、これ。


そろそろお坊さんには帰ってきてほしいなあ。あの二人が離脱してしまい、彼女が加わったとなると、アストラルの平均年齢がえらいことになっちゃうし。それに、アディが色々と瀬戸際まで来ているこの状態、ダフネがまた鍵を握ってきそうな感もあり、その彼女を支えられるのは坊さんしかいないだろうし。
カップリングというと、みかんはやっぱり猫屋敷っぽいなあ。両方、そんな気はないんでしょうけど。でも現段階で二人ともお互い、ただの同僚、仲間ではないどっか特別な存在として意識している節がありますし。まあ、歳の差は気にしない方向で。

力を失ってしまったいつきだけど、果たしてあの生命の実だけが彼の中に秘められていた秘密だったのだろうか、というと首をひねらざるを得ないんですよね。ダリウスも疑問を抱いていましたが、いつきの異能と生命の実――竜という存在は合致するようで、どこかズレてる気もするし。
まだまだ、なにかありそうなんだよなあ。

とにかく、第二部完結編に相応しい、素晴らしい盛り上がりでした。
辰巳兄ちゃんも、ここにきてその超絶的な力を発揮してくれましたし。この人、本気で凄かったんだなw
いや、鬼祭りではいまいち活躍しきれてなかったから、気がつかなかったんだが、螺旋なる蛇の幹部と伍するほどだったとは。あの敵には、前はぶっちゃけボコボコにされっぱなしだっただけに、それとまともにガチンコしてるというというだけで、その強さが知れる。
まあそれを言うなら、猫屋敷の本気もとんでもなかったわけですけど。

うーん、返す返すも戦力ダウンが痛い。まー、アディも穂波もこのまま黙ってるタイプではないから、否応なくレベルアップしてくるんでしょうけど。