ドラグーン・デリバリー ~竜の背はまごころを運ぶ~ (HJ文庫)

【ドラグーン・デリバリー 竜の背はまごころを運ぶ】 佐々原史緒/水月悠 HJ文庫

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竜に憧れる女の子コゼット・パースンは、念願であった竜に乗って宅配便事業を行う「ドラグーン貨物」に就職することになった。希望に胸を膨らませて配属先にやってきたコゼットを出迎えたのは、問題ばかり起こす不良社員の部下2人、竜騎手のリズとアイリーンだった。
竜に乗った宅配便屋さんが届けるハートフル・コメディ!


いや、確かに間違いなく読んでて大いに笑い、ほんのり心が温かくなる見事なまでのハートフル・コメディなんだけれど。
佐々原さんって、特に異世界ファンタジー系の話を手掛けたときですけど、やたらその世界観、その社会情勢が過酷というか、殺伐としているというか、やたら生々しい悲惨な現実ってのが横たわってるのが多いんだよなあ。【サウザントメイジ】【トワイライト・トパァズ】シリーズもそうだったし、【スイートホームスイート】もあれ考えてみると置かれた環境、かなり理性的に厳しいものでしたし。
そういう一歩踏み込むと生々しいまでの現実がドンと坐している世界の中で、そういう背景の暗さ重さを表に出さずにグッと飲み込み、あっけらかんとにぎやかにドタバタ騒いで笑って、己が夢や生活に立ち向かってはしゃいでいるキャラクターたち。
この作者のコメディがやたら楽しく面白いのって、なるほどこの相容れぬはずのアンバランスさが見事に調和して料理されているからなのかなあ、となんとなく思ったり。
アイリーンが主役の話なんて、そうとうヒドイ話ですよ、あれ。人身売買が根底にあり、元は兄弟のような関係だった幼なじみとあんなことになり。ただ、そういう人間性が歪んでも仕方ないと思われるような環境の中で、多少暴走しがちだけれどみんな人情味あふれた人たちで、それがどうしたといわんばかりに笑い飛ばして、突っ走ってる。そりゃ、痛快だし気持ちいいし、心も温まらあな。
コゼットがえらいことになったときでも、リズやアイリーンが暴れたいだけ金儲けたいだけ、会社のみんなも騒ぎたいだけ、なんてコゼットには表向きそう見せておいて、その実態を知ったときのコゼットの感動は、読んでるこっちの感動でもありました。
ほんと、いい職場じゃんかよ。

改めて思ったけど、佐々原さんは主人公女の子の時のほうが面白いよね。このコゼット、お嬢様育ちでポヤポヤおっとりしてて、リズやアイリーンに振り回されっぱなしという、今までの女の子主人公からするとやや頼りない風情だけど、それでも負けん気根気は十分以上にあって、なんだかんだとしっかり仕事はこなして見せる根性ガールでしたよ。この仕事ちゃんとできるのはやっぱり偉いよ。誰かに認められるだけの働きをしてみせるやつってのは、大したもんなんだと思うよ。押しは弱いし、ギャンブルは泥沼はまるほうだし、蹴っ飛ばされるは弄られるはと、ほんと頼りないったらありゃしないんだけど、ここぞという時、肝心な時には絶対にリズやアイリーンの信頼を裏切らないんですよね。そして、ちょっとした心遣いや優しさを異端児ともいうべき二人に自然に差し伸べる。だからこそ、二人も同じような感情を投げ返してくれるわけだ。
このアットホームな雰囲気の醸成は、作者独特の腕前だよなあ。これがまた、とびっきり心地いいんだわ。
話としてはこの一冊でうまいこと終わってるけど、まだまだ続けるのは難しくなさそうなので、できれば続き出てほしいなあ。

それにしても、時代は今やイタチさんなのか!?