聖者は薔薇にささやいて―ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (コバルト文庫)

【ヴィクトリアン・ローズ・テーラー 聖者は薔薇にささやいて】 青木祐子/あき コバルト文庫

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「好きな女性をしあわせにするには、どうしたらいいんでしょう、シャーロックさま」
「きれいなものを見せて、おいしいものを食べさせて……楽しい話をして、彼女の話をきいて、できるだけ、傷つかないように気を配ってやればいい」

おいおいおいおい、シャーロック、シャーロック、シャーロック!!
確かに、確かにそうなんだけどさ。それはちょっと違うでしょう(笑
これ、本心だからどうしようもないんだよなあ、この男は。本気でそう思ってるなら、それはそういう男だからというんでいいんだけど、この男がクリスに対して抱いている想いや気持ち、彼が本当にクリスに求めているものは、そのやり方じゃ必ずしもうまく行かないし、得られにくいものなんだということに、気づいていないのがネックなんだろうな。
ああ、それにしてもこれまでシャーリーに対してどうにも言葉にならない居心地の悪さが付き纏ってたんだけど、彼のこの発言でだいたい理解できた気がする。パメラも、これじゃあ心底クリスを任せる気にならないのも、無理ないなあ。でも、クリスみたいな娘にはむしろこのシャーリーみたいな傲慢な人間こそ合っているのかもしれないけど、このままだとどうしても貴族とその妾という関係以上にはどうしても発展しようがないように見える。難しいなあ。

と、この巻はクリスとシャーリーの話ではなく、パメラのお話なのである。時系列的には、シャーリーがアデルに正式に婚約を断る直前らへんになるわけか。パメラがクリスの代わりに社交界のパーティーに参加する場面があったわけだけど、その裏ではあんなことが起こってたわけか。
元々、パメラはこの作品のなかでも一番好きなキャラクターだったわけですけど、彼女を主役としたこの話で、さらに好きになったなあ。これほど立派で可憐で凛とした女性はそうそうお目にかかれないし、彼女の外見上の美しさではなく、その本質を見抜いて見染める男性たちもまた、イイ男連中なんですよね。
特に今回株をあげたのはアンソニー。自分、こいつあんまり評価していなかったんですよね、これまで。どうにも空気読めないし、間が悪いし、ちょっと場違いなところがあって、頼りないしヘタレだしで、とてもじゃないけどイアン先生と張り合うには役者不足だよなあ、と思ってたんだけど、今回の頑張りを見てたらねえ、応援したくなっちゃうじゃないか。
いや、今回は実際に頑張ったと思う。自分の弱さ、至らなさをしっかりと自覚した上で、パメラを気遣い、彼女を守るためにはイアンを応援することも厭わないその潔い態度。イアン先生がどこか包容力の在る頼もしい大人だとしたら、このアントニーは男として可愛らしいんですよね。ひたむきで、健気で。パメラの出自を知ってしまった時の、彼の自分の過去に照らし合わせた形での彼女への気遣いは、正直この男はこれほど相手の心を慮れるやつだったのかと、感心したくらい。
パメラも、随分彼への見る目も変わったみたいだし、ほんとに株あげたと思うよ。
でも、それにもまして盤石ぶりを発揮したのはイアン先生でした、と。
いやあ、この人。まじカッコいいわ。この作品、いささか人間の心の繊細な部分を多く描いているせいか、どうにも欠陥や不安定さを内包した人間が多いんですけど、その中でこのイアン先生の人間としての器の大きさは、桁違いと言ってもいいかもしれない。男でも、これは惚れる。アントニーがやきもきするように、肝心なところで鈍い部分とかはあるけれど、ここぞというときの頼もしさは、ほんとに半端ない。アイヴォリーと対決した時のこの人の毅然とした態度には、普段ののほほんとした人畜無害そうな姿は浮世を欺く仮面だったのかと思いたくなるほど、素晴らしい紳士ぶりで、本気で惚れた。そりゃあ、アントニーもこの人なら仕方ない、と思っちゃうよなあ。アントニーとイアン先生、この二人が面識を得てどうなるかと思ったら、意気投合して妙に仲良くなっちゃったのは笑ったけど。それを傍で見ていたシャーリーが、恋敵と仲良くなるなんて自分じゃ考えられん、とか思ってるのも、笑えたけど。
まあ、この二人とシャーリーとでは、想い人への気持ちの在り様は決定的に違うからなあ。イアン先生たちは、まず何よりパメラの幸せが優先で、自分たちは後回し、だし。
まー、今回株上げたアントニーと、さらに器の大きさを見せてくれたイアン先生らに対して、はっきり言ってアイヴォリーじゃあ、相手にならんかったな。実際、パメラに絡んでくる態度にはずっとイライラさせられていただけに、最後のイアン先生にバシっと言ってもらい、アントニーにガシっとシメてもらったのには、最高にスカッとさせてもらった。
やっぱり、パメラは幸せになるべき女性だと思うよ、ほんとに。正直、クリスよりも、そう思ってしまう(苦笑

しかし、クリスは確かに傍に居る事でパメラの心の支えとなり、パメラを救っているのかもしれないけど、でもパメラが参っている時くらいは、気づいてあげて気遣ってあげるくらいはして欲しいよなあ、と思ってしまう。パメラは、いつもいつもクリスの事を思って、考えて、支えようとしてくれてるのにねえ。


今回は番外編と言う事で、さらに短編二編と挿絵のあきさんの漫画付き。
意外だった。四コマ漫画、何気にやたらおもしれえ!! この人、漫画もこんなにいけたのか。以前、購入した単行本は神秘的でシリアスな雰囲気のものだったから、こんなコメディノリの四コマが面白く書ける人とは思わなかった。