輪環の魔導師〈6〉賢人達の見る夢 (電撃文庫)

【輪環の魔導師 6.賢人達の見る夢】 渡瀬草一郎/碧風羽 電撃文庫

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ああ、これって安易にこう考えるのは危険かもしれないけど、空ノ鐘とは反対の流れなんだ。
軍記物・戦記物としての始まりから、キャラクター個々の物語へと収束していった空ノ鐘とは反対に、まず舞台を辺境からはじめ、セロたち主人公を取り巻く世界観を限定して狭い部分に焦点を当てて推移させていたのを、ここにきて一気に世界規模に広げてきたわけだ。
これまで辺境出身のセロの視点から見ていた世界が、一気に高いところに移行したことで、魔族とアルカインたちの対立構図すら激動しつつある世界情勢の僅かな一部にすぎないことが分かり、魔族という存在の位置づけすらこれまでの認識から一気に覆るような、これは一種のパラダイムシフトだわ。
これまでの舞台となっていたエルフール王国も、これまでだとセロの目から見ていたからだろうけれど、まるで全世界の大半をなしているような巨大な大国のようなイメージだったのに、世界全体からみると吹けば消えてしまうような、少なくとも強国とは程遠い小国にすぎなかったんですよね。
何と言っても、五巻までであれほど魔族と死闘を繰り広げてようやく解放したエルフール王国だったのに、たった一人の差し手であれほど容易に命運が決められてしまいそうになったことが、なんかもうショックで。
あれほど強大で比類なき敵のように思われた魔族も、こうして現状の世界情勢を目の当たりにしてしまうと、まだ世界の隅でこそこそと何かを企んでいるだけの弱小勢力でしかないことがわかり、それらと決死の激闘を続けていたセロたちはなんだったのか、と。
もっとも、未だ少数勢力であり世界の覇権を握りせめぎ合う諸勢力からあまり相手にもされていない魔族勢力ですが、ルーファスをはじめとしてこれから誰も無視できないような強力な新興勢力としてメキメキと頭角を伸ばしてきそうな気配はビシビシ伝わってくるのですが。

こうしてみると、魔族=悪というのはやはり完全に間違った認識なんだなあ。竜使いの兄ちゃんの魔族化も解かなかったし。
魔族個々はもちろん、勢力としての魔族も決して一方的に断罪されるような存在でないのはちょっとした驚きかも。北天将ルーファスの一団なんか、こうしてみるといっそ魅力的ですらある。いまいちキャラクターがわからなかったルーファス自身も、非常にカリスマ性と愛嬌のある魅力的な人物であるのがわかったし。

こうなってくると逆に怖いのは、教会なんだよなあ。なんだよ、あの巨大勢力は。なんかもう、抗いようのない絶対権力みたいな威圧感。
これもまた、これまでの魔族と同じくある一方から見た姿でしかないんだろうけど、これほど無茶苦茶されると、ルーファスたちとの共闘すらもあり得るんじゃないかと疑ってしまう。
なんにせよ、こうも賢人がしっちゃかめっちゃかだとなあ。ファンダール師が出てこないことには、乱世まっしぐらじゃないのか、これ。

セロが見る過去の夢といい、還流の輪環にはまだまだヒミツが眠っていそうだけど、こりゃあ否応なくセロたちは激動の世界の表舞台に引き摺りだされそうだ。
まったく、こいつは面白くなってきたぞ。


そして、フィノのセロ狂いがもはや笑うしかなくなってきた件について(苦笑
いちいちハラハラして神経擦り減らしてるアルカインに同情すると同時に、笑えるんだよね。どんだけ気苦労背負ってるんだ、と。
セロは全然わかってないもんなあ。アルカインからみると、ニコニコとほほ笑みながら地雷原を散歩しているように見えるのかもしれない。
薬師の師匠アネットは、セロにもフィノと同じくらい気をつけろとか言ってるし。たいへんだw