天川天音の否定公式 (MF文庫 J は 6-4)

【天川天音の否定公式】 葉村哲/ほんたにかなえ MF文庫J

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うわあ、前作の【この広い世界でふたりぼっち】とはまるで違うじゃないの。この人、こういうのも書けるんだ、と感心してしまった。いやはや、作風の範囲が広いというのは、いいことだと思うよ。
それに、個性を消してしまったわけではなく、後半ラストの主人公周辺の情報が浮き上がってくるらへんのシーンでは、前作で作品全体に立ちこめていた深く立ちこめる白い霧を連想させる、うすら寒くも厳かな幻想神話の雰囲気が確かに感じられたんですよね。前作がとにかく自分の持ってる特色部分を先鋭的に研ぎ澄まし、特化させた作品だったとしたら、今回のはそれをうまく引き出して使いこなしているイメージ。その意味でも、非常に驚き感心させられたんですよね。よほど地力が高くないと、自分の作風をこんな風に掌握して使えないですよ。前作みたいな作品書く人は、書き方事態に引っ張られ、引きずりまわされてしまいがちだしねえ。

個人的には序盤の異能編は普通だったんだけど、際立って素晴らしかったのが猫被ってた天音の本性に主人公が慣れ、同時に瑛子が仲好くなった二人の関係に気づいて割り込んできたあたりですか。
すなわち、ラブコメパート!! これが、とんでもなく素晴らしかった!!
瑛子と天音がぶつかりだしたあたりから、二人に振り回されてるみたいに見えていた主人公・雪道の本性が明らかになってくんですよね。雪道の策略で、天音の猫被りが瑛子にバラされ、有耶無耶のうちに二人とも仲良くさせられてしまった挙句に、ヒロイン二人がまとめてマイペースな雪道のノリに振り回されまくる、という展開に(笑
「あーん」とか、極悪だぜ、あれw

でも、この三人の関係が、ほんとにすばらしいんだ。個人的に、こうした誰が欠けてもいけないトライアングルの三角関係って、ツボにハマりまくるんだよなあ。雪道の瑛子を大事に思う気持ちとか、瑛子が雪道を好きな気持ちの純粋で真っすぐな温かさは、ほんと可愛らしくて眩しいくらいに思えるし、そんな二人に出会った天音の無邪気さ。弄られ、可愛がられ、大事にされ、という関係は、ほんと読んでて楽しかったし、ニヤニヤしっぱなしだった。
中盤から、ただ巻き込まれていただけと思われていた雪道の存在に突き付けられた謎の、寒々しさを感じさせる不穏な空気が、余計にこの三人の関係を引き立たせていた気もするなあ。能天気ではない、今にも崩れそうな前提の上にあるからこそ、尊くも眩く大切な関係、という感じで。

御堂叶流も、これ思いのほかイイキャラだったなあ。いや、途中まではそんなにイイとも思ってなかったんですが、エピメテウスに対してあの態度・表情のまま、あんな事をナチュラルに云った瞬間にガラッとイメージ変わりましたよ。あの理由だけなら、ここまでグルっと変わらなかったんですけどね。ただ、言動通りの人間じゃなかったんだな、と思うだけで。
ただ、それまでもあの奇矯な物腰の侭、自然にああいうこと言われてしまうとね、いきなり底が見えなくなった気がしたんですよね。考えすぎかもしれませんけど。

にしても、面白かった。セリフの中にも、短いくせに異様に印象に残る名セリフも多いし。「全部」とか「光だ」とか、もうグッと来ましたよ。
後半行くほどテンションあがってきて、これはホント、予想外に傑作でした。やー、面白かった。
最後の雪道の叫びには、もうニヤニヤしすぎて、顔面崩壊だったw