翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈上〉 (幻狼ファンタジアノベルス)

【翼の帰る処 2.鏡の中の空(上)】 妹尾ゆふ子/ことき 幻狼ファンタジアノベルス

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やっぱり面白いなあ、これ。まったく、べらぼうに面白い。
隠居して余生を過ごしてとっとと死んでしまうのが当面の夢です、希望です、と公然と口走り、その並外れた虚弱体質で事あるごとに熱を出してぶっ倒れる主人公のヤエト様。
その自らの生き死ににも頓着しない生き様から派閥争いに巻き込まれて、北領という帝国でも辺境の僻地に左遷されたのが運の尽き。左遷だ左遷だと喜んでいられたのも最初のうちだけ。ただの下級官吏だったのが、尚書官という文官の責任者に祭り上げられ早々に北領の未開人たちに振り回され、北領の太守として派遣されてきた皇女に見初められて、副官に任命されて、一心不乱に働かされる羽目に。
まー、それだけでも隠居から遠ざかり、ご愁傷さまというところだったのに、今回北領が国に格上げされたのをきっかけに、皇女からは相――首相・宰相的役職と考えていいだろう――に任命された挙句に、本国では貴族として召し上げられることに。その任命された貴族の位が、またえらいことになってしまい……と、とっとと隠居したいはずの男の転落人生の物語w
傍から見ると、ものすごい成り上がり、立身出世、栄達なんですよね、これ。にも関わらず、本人的にはまさに転落人生(笑
この一冊の中で、今回ヤエトは一体何回、面倒くさい、もういやだ、逃げ出したい、隠居したい、というかいっそ死にたい。死んでしまいたい。と内心で連呼してたか。数えるのも馬鹿らしいくらい、そればっかり考えてるんだから。
でも、自業自得なんですよね。この人、客観的にみるととてつもなく有能なんですもん。面倒くさいといいつつ、しっかり仕事こなしているし。本人自覚ないですけど、ルーギンがその自覚のなさに発狂しながら指摘しているように、まさにこの人一人の存在が北領を支え、後継者争いに紛糾しつつある宮廷闘争の中で皇女を守っていると言っても過言ではないくらい。彼がいなくなれば、それだけですべてが崩壊し、破綻してしまうくらいには、彼は重要人物になってしまっている。
実際、ヤエトって面倒くさいといいつつ、仕事に関してはどれほど立場があがり、変わっても、そりゃ難題には頭を悩ませますけど、戸惑う風もなくテキパキとこなしていくんですもん。はっきり言って、さすがに皇帝陛下から爵位を賜ったあとなんか、そんな位を頂いてはたしてやっていけるのかいな、と思ってたら、案外困った風もなくこなしちゃってるんですよね。これには正直驚いた。物怖じしない人だとは思っていたけれど、まさかこれほど適性を見せるとは。私も、皇帝が彼にあの位を与えたのはけっこう嫌がらせの向きもあったように思うけれど、ただそれだけではなかったのかもしれない、と彼の働きぶりを見るに思いましたね。
この人、ほんと面倒くさいとは言っても、無理ですとかできません、とは思う事すらしないんだからなあ。
だから、そんな手を抜かずに真面目に働いて有能さを知らしめるから、夢である隠居から遠ざかってしまうんだって(苦笑

さて、問題だった帝位の後継者争いは、各皇子たちの背景や人となり、現状の政治的立場などが詳しく情報を出してきてくれたお陰で、かなり現在の状況がクリアになってきた。なるほど、皇女殿下はかなり面倒くさい立場にあるんだな。それでいて、本人にはその危機意識がかなり薄いと。彼女の善良で真っすぐな人となりは、こうした状況では決してプラスには働かないということなんですね。それを補うのはヤエトやルーギンの役目でもあるのですけど、ヤエトは切れる割に自分の身の安全に対しては皇女殿下並みに無頓着ですし、ヤエトってわりと皇女のこと甘やかしてるんですよね。その意味では、ルーギンはかなり苦労しているのかも。
そう、今回読んでて改めて思ったけど、ヤエトって皇女に対してかなり甘いところがあるんですよね。普段は厳しく現実的な物言いで皇女を指導しているヤエトなんですけど、第三皇子の裏切りについて皇女の心が傷つくのを慮って言を控えたり、弱った皇女に対してスッっと甘い言葉をささやいて労わったりと、この男、時々、そう、本当に肝心な時に、無自覚にけっこう皇女の内面にズケズケ踏み込んで他人が触るべきでない部分まで、撫でていくような所があるんですよね。あの場面で名前呼ぶとか、反則でしょうに。ほんと、ヤエトはまるで自分が皇女をどのように扱ってるかわかってないんですけど。ただの臣下がするような事じゃない事をしてる自覚がまるでない。
そういうことをするから、段々と皇女が、自分を臣下や師という存在以上に見始めていることに、まったく気づいていないわけです。
まわりは、みんなわかってるのに、ねえ(苦笑
皇女本人にどれだけ自覚があるか、それはわからないけれど、今回の最後のシーンで、ああいう状態になった時にヤエトにだけは見られたくない、なんて口走っていたのを見ると、どうにもこうにも…ねえ?
それに、ルーギンはじめ、周りはみんな、そうなることを望んでいるみたいだし。幸か不幸か偶然か作為の結果か、そうした展開が決して不可能ではない立場に、ヤエトは立っちゃってるわけですしねえ。
はてさて、どうなることやら。

いやさ、この最後の展開はかなりニヤニヤさせられますけど、ルーギン兄さんはもうグッドジョブとしか言いようがない。


一方で存在感を増していたのが、ジェイサルド御大。何を考えているのかわからない不気味な所のあった人ですが、ようやくここで今の彼の目的が明らかに。こうなってくると、どうやら心底ヤエトに味方してくれるみたいだし、この上なく頼もしい存在だわなあ。
あと、シロバが鳥のくせになんかヤエトのお袋さんみたいなのが笑った笑った。