世界平和は一家団欒のあとに〈8〉恋する休日 (電撃文庫)

【世界平和は一家団欒のあとに 8.恋する休日】 橋本和也/さめだ小判  電撃文庫

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ああ、もう否定はしないんだ柚っち。

このあいだ久し振りに三人で帰ったときなんかねー、あの二人ときたら『そういえばこの間のあれ、どうなったっけ?』『それなら昨日ちゃんと言っといたじゃない。しっかりしてよ』とか、もうアレとかコレだけで会話してるの。傍で聞いてる身としては、もうこれ、どこの熟年夫婦ぅー!? みたいな感じでね。もう香奈ちゃんが呆れながらお兄ちゃんに靴下の場所を教える光景まで目に浮かぶよ。


というわけで、毎回家族の一人にスポットを当てて物語が展開するこのシリーズも、遂に星弓さん家のお嫁さんこと、柚島香奈子のターンきたぁぁ!!
よっしゃ、テンションあがってきたッ。
とか言いつつ、実は妹・美智乃のターンでもあったわけなんですけどね。
星弓家のお婆ちゃん。随分と昔になくなっている織花と、祖父の腹心である煉次の若かりし頃のラブロマンスがまた、セピア色をして切ないんだ。
かつて、大切な存在を守ると誓ってその誓いを果たせなかった男の哀愁が、数十年の時を超えて、織花に瓜二つだという美智乃へと差し向けられるというお話。
こうして見ると、男と言うのはいつだって思いあがっていて、女の子の本当の気持ちになんか気づいていないのだ。それが優しさであれ、愛情であれ、ただ一方的なものでしかないのなら、女性はそれを受け入れない。その人の事を想っていてこそ、受け入れない。ただ守られることを良しとせず、支えあって生きていきたかったという願いを、男は大切に思うが故にわかってやれない。

「守るだの守られてるだの、たったそれだけの関係なんて、ちょっと寂しいじゃない?」
「私たちはお互い様よ。できれば対等な関係でいたいの」


そう考えると、尻に敷かれて頭が上がらない関係というのは、むしろ最適なのかもしれない。女は負い目に思わず、男は思い上がらず、素直な感謝で結びあう、それはきっと、素敵な絆。
改めて、香奈子と軋人の関係は見ていて気持ちいいなあ、と思わされた。香奈子は本当にいいやつと巡り合えたと思うし、軋人も勿体ないくらいの娘に引っかかったもんだ。
それにしても、香奈子が軋人の事を好きなのか、と問われて明確に否定とか誤魔化しとかせず、消極的にだけれど認めるそぶりを見せたのは驚きだった。柚っち、ちゃんと自分の気持ち認めてたのかー。
そうなると、二人の関係が進展しないのって、二人が不器用だから、というよりも、現状維持を二人ともが望んでるから、というべきなのかもしれないな。お互いはっきりとは言わないものの、自分が相手を好きで、相手も自分が好きだという感覚は伝わってる。だったら、それでいいじゃない、みたいな。これで軋人が無神経で鈍感でフラフラしがちな野郎だったら、香奈子ももうちょっと関係をはっきりさせてしっかり捕まえないと、という焦燥感に駆られるんだろうけど、軋人ってあれで結構気がきく所も多いんだよね。無精者ではあるんだけど、意外と香奈子のこと良く見てて、自分がまずい行動とって彼女の機嫌損ねたら、ちゃんとまめにフォローにかかるし。大雑把なようで、細かいところに気がついて、香奈子のことしっかり大切にしているし。そうなると、香奈子からすると今の状態でも安心しちゃって焦る必要感じないんだろうなあ。
包容力があると同時に、あいつは無茶しがちですぐ突っ走るから、自分がついていなきゃ、という母性本能を擽るところもあるんだろうし。
隣にいるのが、今の段階ですら自然な状態で、それはこれからもずっと続いていくだろうという感覚。それが、今の状態で二人の関係が遅滞してしまってる原因なんでしょう。
まあ焦らないでも、いい雰囲気にはたびたびなってるからなあ。美智乃が危惧するみたいに、このままなあなあで有耶無耶になっちゃう、って事はないように思う。でも、美智乃も今みたいにもっと二人の背中を押すようなちょっかいはドンドン掛けていいようにも思うな。二人ともあれで意固地なところ少ないし、案外美智乃の企みにひょいひょい乗りそうな所もあるし。余計なお世話ではなく、本当に進展のきっかけみたいな事になってもおかしくなさそうだからね。

とまあ、そんな二人の理想的な関係が、煉次の心に長年影を落としてきた呪縛を解きほぐし、辛く哀しい想い出を温かな想い出へと昇華させたという、終わってみればやっぱり素敵でハートフルなお話だったなあ。
美智乃も、今回はずいぶんといろんな顔を見せたな。普段は破天荒でアグレッシブすぎるくらいアグレッシブな娘だけど、年下なくせに姉さん女房全快な香奈子と違って、もしかしたら美智乃はわりとしおらしくなるタイプなのかもしれない。そういえば彩ねえもわりとそんな所あったような。
さらわれてる時の態度とか、香奈子にポツリと漏らした告白を聞くに、この娘なりに本気だったんじゃないだろうか。そうなると、最後に彼に告げた言葉というのが、けっこう切ない意味を以って聞こえてくる。

叶わぬ恋の、また麗しき哉。