封殺鬼―鵺子ドリ鳴イタ〈5〉 (ルルル文庫)

【封殺鬼 鵺子ドリ鳴イタ 5】 霜島ケイ/也 ルルル文庫

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桐子婆さまの若かりし頃。時代の闇が世に影を落とし始めた昭和の初めを舞台とした封殺鬼シリーズの番外【鵺子ドリ鳴イタ】もこの五巻でついに完結。
僅か10歳で神島家の当主を継ぎながら、その際の継承者争いで兄を喪い、深く心に傷を負っていた桐子も、聖と弓生に支えられ、宇和島夫妻の親愛を受け、なにより志郎との出会いによって、一巻の時とは見違えるようにその在り方を変えたように見える。
他人を寄せ付けず、全部一人で抱え込もうとしていた彼女が、兄や従兄の裏切りとその死の影響で、他人を信じられず、なにより自分のために誰かが傷つくことを過剰な位に怖れていた彼女が、今回神島の当主として乙夜の儀式を破壊する際に家人たちに出した命令には随分と驚かされた。
確かに、あの命令は酷薄にすら見えるけど、家人たちを信じていないと決して出せないものなんですよね。以前の彼女なら、絶対に口にしなかった令なのです。なにより、乙夜に神島家の者たちが馬鹿にされた時には、敢然とそれを否定して見せ、その力を誇って見せている。
いつもどこか張り詰めて、いつかひび割れて壊れてしまいそうな危うさの上に立っていた桐子だけど、今の彼女は名実ともに当主として相応しい在り方を身に付けたんじゃないだろうか。
それと同時に、宇和島の奥方の前や、志郎の前では歳相応の子供らしい顔、我儘で気位の高い年頃の女の子らしい顔を素直に……ではないけれど、隠しきれないほどあからさまに見せるようになってきた。
当主としての桐子と14歳の少女としての桐子。その二つの顔が矛盾なく両立するようになってきて、以前の不安定さはもう見えなくなっている。
桐子の傷は、信頼できる人々との出会いによってようやく癒えたのかもしれない。彼女の奈落のようだった洞は、埋まったのかもしれない。
そういえば、前の巻での感想で悠久の時を生き続ける聖と弓生の絶対に届かない絆にこそ、あれほど二人に大切にされながら彼女の空隙が埋まらなかった理由があると書いたけれど、ここで彼女は彼女だけの絆を、ついに手に入れたんだろう。
自分の友達は君だけだ、と言われてこっそりと喜び、幽玄の狭間で捨てた想い出を取り戻してもらい、さらに未来の約束を交わして……。
志郎は今まで、どうにも桐子の扱いがそっけない向きがあったけど、あの桐子の洞を目の当たりにして怒ったあたりから、明確に態度が変わってきた。それでも、まだあまり彼女を女の子として見ている素振りは少なかったんだけど……此方もちょっと変わってきたのかも。
少なくとも、とても大切な存在だと明言するほどには。
この巻の末に、二人がやがて結婚することが明示されている。二人の行く末がどうなっていくのか、【封殺鬼】シリーズを読破した方ならご存知の事だろう。桐子が言ったというあのセリフ、シリーズを通読していた時には神島桐子という人物の峻厳さを示すエピソードとして捉えていたのだけれど、実際にこうして彼女の少女時代、そして志郎という人との絆の在り様を知ってしまうと、どれほどの想いを抱えてあの言葉を発したのか、胸が震えて仕方がない。

二人の物語はまだ始まったばかりなのだという。二人のその後、それこそ結婚に至るまでのエピソードなんかも読みたいのは言うまでもなく。できれば、もう一シリーズ桐子様で行って欲しいなあ。
それこそ、桐子さま一六歳! とかで。
と、云いつつ、本編の方の後日譚あたりでも大歓迎なのだけれど。最近、佐穂子分が足りないんだもんね。


にしても、あの人の正体については、もうまったく最後までまるで気がつかなかっただけに、あっと言わされた。それこそ、見た通りの人だと思っていただけに。言われて振り返ってみると、確かに伏線らしきものはそこかしこにあったんだけど、いやもうさっぱり気がつかなかった。やられたなあ。どうにも軍人だけが一方的に時代の闇に蠢く悪役にされて微妙に違和感感じてたんだけど、見事にひっくり返された。
そのうえで、その彼の口から語られることによって、どうしようもない時代の流れ、妖怪や怪異とは全く別の、不気味で如何ともしがたい人間の社会の蠢き、というものを示されたみたいで、この時代の名状しがたい重たい雰囲気がひしひしと伝わってきたように思う。


この巻は短編のCDドラマが付属していたのですけど…また沢城さんかい! この人、最近はほんとに売れっ子だなあ。まあ、それだけの実力者だと言うことなんでしょう。毎回驚かされっぱなしだし。
聖の人はかなりぴったし。弓生は思ってたより渋いなあ。
話的には桐子さまをもう存分に堪能できたので、大満足。まあ、志郎はああいう怒り方はしない変人だと思うんだけど。


そういえば、作中で本物の鵺が鳴いてたけど……いいのか、あれで?(爆笑
仮にもシリーズタイトル【鵺子ドリ鳴イタ】なのに。志郎も呑気というか、わざわざ本物連れてこなくてもよかろうに。いや、でも実際あれは腹立つ。あの鳴き声はイラッとくる。源頼政の鵺退治・新説だなw
しかし、この封殺鬼に出てくる妖怪たちって、けっこうコミカルというか、天然というか。一反木綿なんか、けっこうヒドイ扱いだぞ、あれ。幾ら文字が書けるからって手紙扱いって。挙句、洗濯してOKなのか、一反木綿w