狼と香辛料〈12〉 (電撃文庫)

【狼と香辛料 12】 支倉凍砂/文倉十 電撃文庫

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今回の話って、殆ど進展がないように思えるんだけど、今こうして感想書く段になって話を振り返っていると、色々と気にかかる所があるんですよね。
消えゆく風景を残すべく描かれる絵画。人の手によって自然の姿が変わり、地形すらも失われていく時代。伝説は現実の現象によって説明され、神代を駆け抜けた雄々しき古き神々は、時代の前に敗れ去り、既に滅びゆく存在となっている。残された神々は、去っていく過去に思いを馳せながら人の中に埋没していき、新しき神の名のもとに古き神の痕跡は焼き払われていく。
そう、この時代は神や神秘が滅び去ろうとしている時代。
今回の話はそれを、強く強く印象付けようとしているような話だったように思える。
前の話でも、古き羊神の、時代に対する生き様を描くことで、新しい時代の訪れを描いているような節があったけれど、今回はそれがより濃く、懐旧と寂寥と強く前に押し出しているように見えた。
ホロの故郷、ヨイツは既に滅びているという。それでも、一目故郷を見たいとヨイツへと帰ろうとしているホロだけれど、ホロが取り残されてしまったのって、故郷だけではなく、今この時代そのものからも、置き去りにされてしまっているんですよね。故郷の仲間たちだけでなく、この世界からは古き神そのものが消え去ろうとしている。
雄々しく賢い狼の化身であるホロの居場所は、もうこの世界のどこにもないのかもしれない。それが、なんかひしひしと伝わってくるような読後感。
今までずっと、ホロとロレンスの関係というのは永遠に存在し続けるホロに対して、ロレンスの人間としての儚くも短く、でもホロにとっては掛け替えのない一瞬の生、というイメージだったのだけれど。なんか、ロレンスよりもむしろホロの方が儚く、すぐに消えてしまいそうな存在に思えてきた。
自分よりも年嵩の、でも神としての生きざまを捨てそれでも誇り高く生きる羊神の長老に会ってから、ホロの態度って微妙に変わってきているんだけれど、今回さらにユーグのような者たちに会い、自分が豊穣の神としての役割を果たしている間に激変していた世界と神の話を聞いたことで、ホロの心情はまた大きく揺れ動かされているようだった。なんだかんだと自分は特別だと思っていた、と告白するシーンなんか、ホロのこれまでの在り方からするとかなり決定的な場面にも見えるし、そのあとのロレンスの支え方なんか見ると、ね。
そして、フランの生きざまとあの村の事件。今回の話はホロにとってヨイツに辿り着いたそのあとの生き方について、色々と考えをめぐらすことになる事件だったんじゃないだろうか。