黄昏色の詠使いX  夜明け色の詠使い (富士見ファンタジア文庫 さ 2-1-10 黄昏色の詠使い 10)

【黄昏色の詠使い 10.夜明け色の詠使い】 細音啓/竹岡美穂 富士見ファンタジア文庫

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うわぁ、泣いた。二人の詠が紡がれていくシーンでは、自分でもどうかと思うくらいに泣いてしまった。
しかし、どうしてここまで泣けてしまったんだろうか。ちょっと自分でも不思議に思うくらい、胸がいっぱいになってしまったんですよね。
お話自体は決して特別でも特異でもなかった。というよりも、むしろ古典的な王道路線と言ってもいいくらい普遍的な内容。囚われのお姫様を、小さな王子様が一生懸命助けようとする話。もしくは、分からず屋の親の手元から恋人を取り戻そうとする、嫁取り話?
こうして見ると、これって子離れできない親に対して、子供はしっかりと自分の力で成長し、貴方から受け取った祝福を糧として、自分たちだけで幸せを掴むことがもう出来るんだ、と伝える親子の物語だったんだなあ、と納得。
これまでミクヴェクスの摂理に抗した人たちは、まさしく反抗しただけだったわけだ。親の説いに対して、受け入れず反対し、抗おうとするだけ。それは、親としては子の行く末への心配をさらに募らせるだけ。
それに対して、ネイトは敢然とミクヴェクスの傲慢を指摘し、誤解や間違いを示し、それとは別に親としてのミクヴェクスの意思と好意、そして祝福を否定せず受け入れ、その上で自分たちはもう、自分たちだけでやっていけるのだ、ということを、見事に証明してみせたわけだ。
エピローグでのミクヴェクスがシャオやファウマに語った独白は、何故ミクヴェクスがクルーエルをネイトに返し、これまで彼の存在が竜との対立を解消するに至ったのか、それをものすごくわかりやすく端的に語っていて、この物語がとても素晴らしい形で幕を下ろしたのを理解させてくれたんですよね。あれは良かったなあ。
正直、ミクヴェクスとアマリリスの対立やこの世界の成り立ち、名詠式の意味など、かなりややこしく把握していたとは言い難かったんだけど、あの独白で一気に全部理解できた気がする。そして、ネイトたちが成し遂げた事の意味も。

ほんとに、きれいなお話でした。なんかもう、不純物を取り除き、丹念に磨き上げ、結晶化させたような、宝石のようなお話でした。見ているだけで圧倒され、心震わされ、魂を奪われる光景ってあるじゃないですか。まさにあんな感じ。気を衒う事もないとても王道的なお話だったにも関わらず、これだけもろに泣かされてしまったのは、人の根源的な部分にある、綺麗なものを見たら感動する、という感性に直撃を食らったせいなんじゃないかと、思うわけですよ。
ぶっちゃけ、色々と足りない部分も多々あったと思う。技巧的、構成的にも拙い部分があったように思う。でも、それらを気にさせない、圧倒的なモノが、この物語の結末には広がり、輝いていたという事なんだろう。
作家として、それはきっと得難い特質なんだろうね。これからも、作者にはそれを大事にして、いっそう磨いていって欲しいと願う。
また、何度も泣かされる作品を読ませて欲しいから、ね。

個人的には、イブマリーが「またね」と言ってくれたことがこの上なく嬉しい。思い入れとしては、むしろ少年少女よりもかつて少年と少女だったカインツとイブマリーにこそ入れ込んでいたものだから。
でも、イブマリー。息子がいるようないい歳なんだから、そろそろ素直じゃないのはやめときなさいよ(笑