星図詠のリーナ 2 (一迅社文庫 か 3-2)

【星図詠のリーナ 2】 川口士/南野彼方 一迅社文庫

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「もう少し背を伸ばしてこい。そうしたら相手をしてやるよ」


……え? あれ? あれれ?
ダール氏はこの発言でパルヴィ姉様の逆鱗に触れてしまうのだが、ちょっと待った。あれ? もしかして、パルヴィ姉様は…ち…ちっちゃい姉様なのか? ちっちゃいのか!? ちっちゃいというのか!!
てっきり長身ですらりと背が高くて、常に上から見下していそうなイメージだったのに、実は下からそっくり返って見上げてるお姉さまだったのか?
そうだとすると、もはやパルヴィ姉様のイメージがどえらいことになってしまうのだが。いやいや、まだそうと決まったわけじゃない。二巻でそれらしい描写はダールのこの発言だけだしな。一巻はどっかに埋もれて容易に見つからないので、確認のしようがないのだけれど。
でも、もしそうだとしたら。これまで刺々しくておっかないイメージのあったパルヴィも、だいぶ印象変わってくるんですけどね。どうやら、次回は彼女も旅に同行することになりそうなわけですし。

と、パルヴィ姉様の事はさて置いて。あ、さて置く前に、前回は黒幕が黒幕であり、事件の過程におけるパルヴィの関わり方が構成上不鮮明になっており、さらに決着の仕方があれだったために、このリーナとパルヴィの姉妹のお互いに関する気持ちが読み取りづらかったのだけれど、今回のやり取りを見てると、なかなか複雑ながら面白い関係だ。
リーナからすると、他の兄姉がリーナを猫可愛がりしているのに対して、パルヴィだけは辛辣な態度で、彼女の実母はリーナを敵視しまくってた事もあって、パルヴィには苦手意識と警戒心を抱いていたわけだ。前回の事件で、パルヴィ本人はリーナを嫌ってはいても敵視や排斥しようとしているわけではなく、むしろ目をかけてくれている節もあるという事が分かって警戒心が解けた結果、自分に厳しい態度をとってくるパルヴィをリーナはとても意識するようになってるんですよね。多分、他の兄姉よりも。その結果、リーナの中にはパルヴィに認めてもらいたい、褒めてもらいたいという意識が起こっている。そこには、姉への強い尊敬の念が伺えるわけです。パルヴィを前にして、緊張しながら姉の言動に一喜一憂する姿は、なかなか可愛らしいものがある。
まあ、リーナが思っているよりもパルヴィの方は遥かにこの妹を認めているようですが。それでも妹への姿勢が厳しいのは、リーナはもっと出来るはずだ、という期待の大きさから。なかなか難儀なお姉さんです。本人、リーナの事を嫌いだと言ってますし、その感情自体は事実なんでしょうけど、でもリーナが難度の高い事業をやり遂げたりしたら、きっと自分がやったみたいに自慢げに鼻を膨らませてたりするタイプだな。

さて、姉妹談義はこの辺にして、本編の方に。
マッピングファンタジーという突拍子もなく地味なテーマを駆使して、とんでもなく面白い作品を送り出してきたこの【星図読みのリーナ】ですけど、今回も自然災害による難民問題に近隣のエルフの集落との外交問題という、またぞろ渋い題材を持ってくるあたり、徹底してるなーと感心してしまった。
前回もその節があったんだけど、地図づくりというのはひいては街づくりにも繋がってくるんですよね。旅の導となり、世界を広げていくのも地図ならば、今いる場所、今住んでいる場所の在り方を鮮明にし、具体的な形で目の前に詳らかにするのもまた、地図というもの。
うん、やっぱり面白いなあ、この地図という要素は。今回はあからさまに地図作りに没頭するんではなく、難民問題を打開するためにリーナは東奔西走するわけですけど、やっぱり根源にはマッピングがあるんですよね。その点は一切ぶれていない。なんか、土木工事にまで手を出してますけど、今回のリーナの仕事って環境デザインの領域だよな、これ。
難民問題に対する対処療法ではなく、根本的に街の在り方を地図と首ったけになりながらデザインしなおしてるんですよね、これ。客観的に見ても、歴史に名前が残ってもおかしくないような仕事だわ。

面白いのは、このファンタジー世界。普通のファンタジーの多くが戦乱期、もしくは戦乱期に足を踏み入れようとしている時代を舞台に描かれているのに対して、このリーナの世界は国家間の緊張は残っているとはいえ、戦乱期が終わり、平和な時代に差し掛かっている時期なんですよね。
それこそ、戦争を生業としている傭兵たちが、自分たちの存在が無用の長物と化しつつある実感と危機感を抱き、理性を欠くほどの、確かな時代の流れが。
これが、どういう意味を持ってくるかはまだなんとも言えないんだけど。単純に、地図というものが軍事における戦略アイテムである、という事はこの作品においてはあんまり意味を持たないのかもしれない。
それよりも、前回といい今回といいリーナが成し遂げた仕事を見ていると、もっとより大きな意味での地図の活用。安定期であればこそリソースをつぎ込める、それこそ国家基盤をより確かな形で安定させる事に繋がる、大規模な国家事業、公共事業を主題とした話になっていくのかもしれないね。
一方でダールを主人公とする竜にまつわる物語も平行して進行していて、今回なぞクライマックスで随分とド派手な大バトルも展開しているわけで。
なかなか良いなと思うのは、その両方の展開の中で登場人物たちの内面がおろそかにされず、それらの進行を通じてそれぞれの関係が着実堅実に前に歩んでいるところか。劇的に変わったりせず、ちょっとずつちょっとずつ、でも着実に進んでいく所など、この作品らしいな、と思う。
ダールとリーナの関係は今のところ恋愛感情にまでは発展していないものの、徐々にだけれどそこにまで至るのではないかという萌芽らしいものがチラチラとうかがえてきているだけに、大いに気になる所だけど、けっこう身分差はがっちりしてるんですよね、この世界観。
ダールの性格からして王宮仕えなんかとても出来そうにないし、ちょっと展望開けないんだけど……前シリーズの顛末もあることだし、この作者はそのへんけっこう大胆だから、期待は皆無というわけじゃないのかもしれない。
なんか、リーナ個人にも妙な要素があるみたいだし。ただ、ダールがあそこまで、きっちりその気になっているのは意外だった。この男、ひねくれ者だけど、全然歪んではいないんですよね。自分の気持ちにも変に斜めに眇め見ることもせず、素直に受け止めているし。
個人的には、けっこうサラとダールというのもお似合いなのかも、とこれ読んでて思ったりもしたけど。なんか、妙に息が合ってきたし。サラは心底から嫌がりそうだけど、ここまで嫌われてると逆にひょんなことからピッタリはまっちゃうパターンもあるしなあw

しかし、この王女さまは、ほんとによく歩くなあ。