オウガにズームUP!3 (MF文庫J)

【オウガにズームUP! 3】 穂史賀雅也/シコルスキー MF文庫J

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確か、全開でクルルと相思相愛である事を確認しあったはずなのに、変にラブラブにならないのはこの主人公らしいというべきか、はたまた穂史賀雅也らしいというべきか。
本来ならもっとガツガツしてもおかしくないようにも思えるのだが、このユージ少年のメンタリティはまだ高校生と言うより小学生っぽいんですよね。恋愛ごとにかまけて女の子の事ばかり考えているよりも、ゲームに夢中になり同じ男連中とつるんでいる方が楽しい…というよりも、楽というところか。
ゲームに関して思わずハメを外して語ってしまう所もあるにせよ、それってオタクっぽさはあんまり感じないんですよね。彼の場合は小学生くらいの子がゲームに夢中になっているのと似ているというか。
まあ、相手がクルルだから、というのもあるかもしれない。なにしろ、ユージはロリコンではないのだからして。
ただ、ふとした時に交わすスキンシップは、ただの恋人関係ではちょっと為し得ないような、愛の営み的な濃厚なそれをナチュラルにはじめてしまうので、ちょっと油断できない。さすがは夫婦。
指チュパとか、そうとうエロいから。
しかも、後で登場したクルル母に目隠しで指を舐めさせられて、どっちがクルルの指か当ててしまうのだから、恐ろしい。ユージって、クルルとのスキンシップにしろ、並みの思春期の少年が動揺でパニックになるようなシチュエーションでも、わりと淡々と堪能している節があるからなあ。あれだけ詳細にクルルの指の感触とか、動き方とか、温度とか覚えているというのは、相当ねっとり味わったとしか考えられない。こやつ、何気にムッツリだ。

ところで疑問なんだが、なんでユージはクルルとの交際を公にしないのだろう。クルルの正体や夫婦となっていることは伏せておけばいい事だし。
デメリットよりも、ヒミツを抱えた煩わしさから解放されるメリットの方が多そうなんだが。
ここでクルルの母親が現れるのだが、これがクルルの妹かと勘違いするかのようなロリっ娘。オウガ族の女性は身体的に成長しないのではないか、という疑惑が浮上する。これはユージがロリコンならば手放しで大喜びな話なんだろうけど、繰り返すがユージはロリコンじゃないからなあ。普通に可哀想なんだが。

クルルとユージの関係が安定してしまった結果、ストーリーの方もなんかどっしりとしてしまった感じ。でも、逆に言うとこの作者の描く物語というのは、変にドタバタさせずにどっしりとすり寄るように動かした方が明らかに面白いので、むしろこれでいいんじゃないかと。話の焦点がクラスメイトたちの方にも移ってきていて、いろんな恋模様がチラチラと瞬きだして、なかなか野次馬的に面白い事になってきた。
この作者の特徴として、女の子側が何を考えているかがバッサリと伏せられている点がある。ラブコメってある程度男女どちらがわも何考えているかあからさまなところがあるんだけど、この人の書く話に関しては、特に女の子が何を考え、その場面で何を思っているのか、というのが読んでていて非常に分かりにくいんですよね。表情や態度、言動はしっかりと描かれているにも関わらず、分からない。なんとも如何様にも受け取れるんですよね。見たまんま、で解釈してもいいんだろうけど、どうにも勘違いしているような気にもさせられるし、ミスリードさせられている気にもなる。ちなみに、好意の方向性が明示している関係でも油断はできない。彼女がだれを好きなのか分かっていても、場面場面でどういう心象を抱き、どういう考えを巡らせているかというのは、なかなか見通せないからだ。
前作【暗闇にヤギを探して】では、その点で大いに翻弄され、何度もあっと言わされた。っと、あれでは主人公ですらも何考えてるか最後まで分かんなかったもんなあ。
この人の作品を読んでいると、鈍感とあながち気楽にキャラクターを指差して笑っていられないなあ、と言う気にさせられる。人の気持ちを察するのは、非常に難しいという話だ。

その上で、この第三話を読むと、ほんと、目眩すらしてくる。
この作者は、青春恋愛劇に関してはたまにこの手のマジ傑作を、ポンと放り出してくるもんだから、たまんない。ほんと、たまんない。
未知は神秘である。分からない事はとても不思議で、分からないからこそ興味深く掛け替えなく思えてくるものだ。ただの他人なら、分からないというのは不気味で恐ろしく、警戒感を膨らますだけの事。でも、恋をした瞬間、未知は神秘になる。彼女は何もかも知っているのか、知らないのか。同じ高校生のように身近に感じられる、だけどやはり全く違う大人の女性。その心は未知で、故に神秘の領域である。
そんな神秘を前にして、恋をした少年は波間に浮かぶ木の葉のように揺れ動く。
人の心の移ろいは、とても無様で恰好が悪いのに、なぜか眩しく美しい。それが恋をしている心ならなおさらだ。
この人は、この作者は、恋をした少年少女の心の泡立ちを描き方が、本当に素敵に素晴らしい。
ほんの少し、この淡くも心地よい酩酊感に耽溺する。