喰霊 (10) (角川コミックス・エース 160-11)

【喰霊 10】 瀬川はじめ 角川コミックス・エース

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なるほど、九尾の狐編からの神楽の記憶喪失、こういう形で昇華させてきたか。非常に効果的な使い方じゃないか。もしこの展開を最初から考えてたのだとしたら、かなり大したもの。
殺生石に取り憑かれた黄泉を手ずから殺さざるを得なかったという癒えない傷を抱える神楽。その神楽自身も九尾の狐にとり憑かれ、闇にのまれ心壊され、黄泉と同じ末路を辿る筈だった。
その際の影響から、自分の過去の記憶のすべてを失ってしまっていた神楽が、泉のなかに現れた黄泉の人格を前に、黄泉を殺してしまった三年前までの記憶が甦ってしまうわけだけど、それはつまり黄泉を喪ったあと独りで戦い続けた二年間と、剣輔と出会ってからの一年間の経験を亡くしたまま、ということでもある。
そんな神楽が、甦った黄泉を連れて逃げだすのは、必定だったのかもしれない。全部の記憶を失ってから、退魔師としての宿命の重さから解放されたただの女の子として過ごした時間も、大きく影響しているんだろう。
今の彼女に、黄泉をもう一度殺せというのは、無理な話ということだ。
だが、対策室から黄泉を連れて逃げだしても、黄泉の瘴気が呼び寄せる悪霊に襲われ、奈落からの使者に追われ、束の間の逃避行は潰え、二人は逃れられない瀬戸際に追い詰められる。
神楽の中に芽生えるのは、黄泉を殺さざるを得なかったあの時の絶望。あの時、神楽を助けてくれるものは誰もいなかった。状況は狂った黄泉を殺す方向へとすべて収束していき、神楽は愛する黄泉を救うため、彼女を手にかける事になる。
そして繰り返される、黄泉と神楽、二人を引き裂こうという抗し得ない力を前にして、神楽は再びあの絶望に呑まれていく。

だけれども、そこからもう一度閉ざされていた記憶が甦ってくる。黄泉亡きあと、出会った一人の少年の事を。自分のパートナーとなり、常に自分の傍らにいてくれた彼のことを。そして、自分がかつての黄泉と同じく、九尾に呑まれ、同じ末路を辿ろうとした時、その絶対の運命に敢然と立ち向かい、自分を救ってくれたヒーローのことを。
思いだす。

「助けて」の呼び声は。
かつて、誰にも届かず消えていったその呼び声を。
今、聞き逃さずに捕まえてくれる人がいる。
今の神楽には、彼がいる。
神楽の叫びを、かの少年は決して聞き逃さないのだ。

剣ちゃん ヒーロー 、見参!

アニメ見て、剣ちゃんいらねーよ、と思った輩は襟を正してこれを読め。
剣ちゃんはなあ、剣ちゃんはなあ……間違いなく、もう完膚無きまでに、喰霊の主人公様なんですから!!

すべての記憶が甦り、涙とともに「剣ちゃん」と口ずさむ神楽。
そして、遂に最後まで黄泉を離さなかった神楽を、二人まとめて抱きとめる剣ちゃん。
かつての惨劇ごと、剣輔が受け止め救いあげるかのような、その構図には、本当に胸が熱くなった。

これ読んでると、原作はあの傑作となったアニメから、実に良い影響を受けているように見える。あの悲劇的な結末を呑みこんで、自分なりのやり方で昇華してるんですよね。
ほんと、予想以上の形で面白くなってきた。