翼の帰る処 2下 (幻狼FANTASIA NOVELS S 1-4)

【翼の帰る処 2.鏡の中の空(下)】 妹尾ゆふ子/ことき 幻狼ファンタジアノベルス

Amazon
 bk1

さわりだけ、とページ開いたのが運の尽き。気が付いたら、全部読んでたよ! 運じゃなくて、どう考えても自業自得だな。面白いと分かっているものを開いて、さわりで我慢できるはずがないと理解しているのに。それでも、さわりだけと言い訳をして開いてしまうのは、目前にモノがありながらそれを無視することが叶わないというだけのこと。
なんだ、単純に読まずに置いておく事が我慢できなかったというだけのことか。

何の因果か、単なる下級官吏だったヤエトが四代大公の一角であり、空席となっていた黒狼公の座に就く羽目になったのが上巻のお話。
国に引き上げとなった北領の相として、主の皇女を支える傍ら、自らも黒狼公の領地を治める事になったわけだけど、前回の最後で皇女が転がり込んできたんですよね。そのお陰で、このシリーズが始まって初めてじゃないかというくらいに、ヤエトと皇女が一緒に行動することに。事実、一巻まるまる、ほぼ行動を共にしてたのは今回が初めてだったはず。それまではなんだかんだとけっこう別行動が多かったしね。それに、まだ北領に居た最初の頃は、皇女とは本当に打ち解けた仲じゃなかったしね。これだけ親密な関係になったあとでは、はじめてだったはず。
おかげで、これまででも十分魅力的だった皇女様の魅力をさらに弥増すはめに。
ヤエトと皇女、それにルーギンを加えた三人組。この三人、ほんとに仲良いんですよね。これまで気づかなかったのは、この三人がプライベートな空間で一堂に会して顔を付きつけ合ってガヤガヤ言い合うシチュエーションが殆どなかったからだと思うんだけど、とにかく仲がいい。ルーギンが皇女をどう思ってるのか、微妙に分からないところがあったんで、いきなりチビ呼ばわりしだしたときは吹いたなあ。まさか、ここまで本気で「可愛がってる」とは思わなかった。
ヤエトもヤエトで、二人や三人で砕けた調子で話していると、皇女に対して主君や師として接するよりも、一人の女の子として扱うような素振りを見せる場合が出てきてるんですよね。
こうなってくると、この三人。なんだか兄妹のようにも見えてくる。それこそ、皇女の本当の兄弟たちよりもよほど。
随分、末妹に甘いお兄ちゃんたちですけど。
ただこの皇女さまは、女の子として、妹分として以上に、やはり皇女として、主君としての大きな器こそが魅力的なんですよね。
ルーギンにしてもヤエトにしても、彼女の口から放たれる言葉に我知らず己が内に押し込めていた真意を掬いあげられ、曇りかけた目を開かされること度々。また、倦んでいた心を晴れやかにし、頑なに凝り固まろうとしていた気持ちを解きほぐしてくれる事もあり、皇女がヤエトたちによって支え導かれる存在でありながら、同時にヤエトたちを包み込み力を湧き立たせてくれる大きな存在として立脚してるんですよね。それをして、ヤエトはいずれ彼女が独り立ちし自分など必要としなくなる、なんて思ってるみたいですけど……まったく、わかってないよなあ、この人は。彼女が彼女である限り、ヤエトを必要としなくなるなんて事、あるはずがないというのに。
まあ隠居したいそろそろ余生をゆっくり過ごしたい、死んでもいい頃だ、などと嘯いているヤエト師ですけど、実際のところまだ三十代の働き盛り。若く、まだまだ人生の機微について学ばねばならない歳の頃。ようやっと、皇女は遠くに離しておくのではなく、目の届く範囲に置いておくのが正解だ、と気づいたように、自分の在り様、他人との関わり方の妙についても、これから学んでいくのでしょう。