彼女は戦争妖精 4 (ファミ通文庫)

【彼女は戦争妖精 4】 嬉野秋彦/フルーツパンチ ファミ通文庫

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しまった、ファミ通文庫の公式サイト上で連載していた短編、というか中編、ちゃんと短編集として書籍化されるんだ。普通に考えたら当たり前なんだが、そうと気づいてたら読まずに温存しておいたんだけどなあ。
でも、由良健二とマハライドの出会いの事件に、ルテティアが日本に来る前のお話、両方とも読んでおいたことでそれぞれのキャラクターへの理解が進んで、この巻でも言動に対する行動原理もよくわかったので、読んでて良かったとは思うんだけど。
特に、ルテティアは本編だけだとかなり無茶苦茶我儘なだけの娘にしか見えないんだけど、フランスでの過去編を読んでると彼女が自分の自己中心的な行動原理に確固とした責任を負う覚悟を持っている、というのと、あれで本気で仲が悪いのは伊織だけでクリスのことはわりと可愛がってる、というのが分かってくるんですよね。
ルゥって、もう本当に我儘でどうしようもないんですけど、ちゃんと自覚的なところと、その我儘によって見捨てられる事見切られる事も覚悟の上で自己中心主義を貫いているところ。伊織がきっぱりと一切甘やかすことなく冷厳に対処してるのでイイ目にはあってない、ってところで案外嫌いじゃないんですよね。ここまでくると、いっそ清々しいと思うくらい。
まー、とてもじゃないけどまともにお付き合いしたくなるような娘じゃないですけど。デレても別に我儘が治るわけじゃないのは、叔父さんとのやり取りをみてると明らかですし。
ただ、彼女の場合、裏切ったり見捨てたりする事はあっても、騙し討ちとか味方のふりしてはかりごとを巡らす、ということは絶対しなさそうなので、その点でもわりと信頼に足るような気もするし。
ぶっちゃけ、現状で敵ではない女性陣、ヒロインたちか。彼女たちって、みんな信用できないからなあ。
あからさまにあやしい行動をとりだした薬子先生はもとより、実のところ常葉先輩も、もしものケース、というのが考えられるんだよなあ。先輩の場合、現状はまったく全面的に心から信頼できる味方なのは間違いないのだけど、彼女の場合どうも条件が揃ったら手段を選ばなさそうな危うさがあるんですよね。根っから真っすぐで嘘や謀は苦手な彼女ですが、一途だからこその危険性が。
願わくば、そんな状況にならない事を祈りますけど。今のところ、伊織が心底から信頼できるのは、常葉とリリオーヌのコンビだけなわけだし。実のところ、伊織ってちょっぴり常葉先輩の事、好きとまでは行かなくても意識はしてると思うんだよね。常葉がつい先ごろ、ヒドイ失恋をした事に配慮して、そうした素振りは一切見せないようにしてるけど。彼女も自分で口にしてるけど、当分は異性の好意を持てないと言ってるし。ただ、彼女の場合は恋愛に臆病になってるだけのようにも見えるけど。兄弟子との一件は、トラウマものだしねえ。
個人的には、伊織と一番相性良さそうなのは常葉だと思うんだけどね。裏表なく素直で言動も明快。それでいて抑制がきいていて理性的という常葉は、伊織のメンタリティとかなりフィットしてるんですよね。牧島さつきやルゥとの対応を見てると、余計にそう思う。まあ、常葉もそういう出来てる部分だけの女性じゃないのも確かなんですが。彼女の一途な狂的な部分は、伊織が不快感や嫌悪感を抱くタイプのものじゃない気がするし。
それに比べて、牧島さつきは、あまりにも相性悪すぎるよなあ、これ(苦笑
ただ内省的で引っ込み思案なだけじゃない、というのは分かったけど、この巻で表に出てきた部分は、ちょっと色々ヤバすぎるような……。あの妹をしてこの姉あり、だったわけだ。
なんでわざわざルテティアがさつきにちょっかい出してたのか、ルゥの普段の行動原則からかなりハズレてて、首を傾げてたんだけど、カラオケルームでの一件で納得。
なるほど、ルゥはさつきにそういう可能性を感じてたんだ。ただそれ、なんとかに刃物になりかねないぞ。

薬子先生は、ほんとに意図が読めなくなってきたなあ。何が目的でなにを考えているのか。
どうも彼女って、どっぷりとウォーライクの闘争に浸かってる連中とは一線を画してる部分があるんですよね。以前書かれていた母親と一緒に暮らすつもりだった、というのは真実みたいだし。母親の急逝に伴う、身辺の慌ただしくも不穏な動き、というのもウォーライクに関わるものとは、なんか雰囲気違うし。
その現実社会での部分と、ウォーライクの戦いの中で見せるあやしい動き。それがどう繋がってくるのかわからないので、彼女が何を企んでいるのか、どういう動きの中にいるのかがさっぱり見えてこないのが、かなり不気味なんだよねえ。
面白いのが、その不穏な動き、というのが伊織や常葉たち、一応の同盟関係を結んでいる仲間たちに、ばっちり認識され不信がられているところ。普通のパターンだと、この手の仲間のあやしい動きというのは、ほぼ完ぺきに仲間うちには悟られずに進行するケースが多いんだけど、これだけ怪しまれてると、逆にどう展開が転ぶかまったく予想がつかないんだよなあ。薬子本人も、怪しまれても構わない、というスタンスだし。何を考えているのやら。

まあ、ウォーライクにまつわるヒミツそのものが、まだまだ殆ど伏せられていて、謎に包まれている、という理由も大きいんだろうけど。
マダムや老紳士の正体や、そのポディションもまったく謎だもんねえ。


ストーリーの方も混迷を深めてきましたが、相変わらずこの作品、食い物がべらぼうに美味そうなんだよなあ。食事の描写の丹念さは、より濃くなってきている気すらする。とにかく、カルボナーラといい、BLTサンドといい、様々なバリエーションが登場するフレンチトーストといい、材料をそろえて調理していく過程が丁寧に描写されているんで、出来上がりが本当に美味そうなんだわ。
それを、クリスがおいしそうに食べるもんだから、余計に美味そう。
伊織の、クリスの面倒の見方も、食事の用意以外に身の回りの世話とか、しっかり描かれているせいか、家事育児してるなあ、という実感が恐ろしいほど感じられる。生活感が、そんじょそこらの作品とはケタ違いに、濃く漂ってくるんですよね。飯が美味そうなのも、そのせいかな。伊織も、家事育児に追われてヒーヒー言ってるかと言うとそうでもなく、愚痴や皮肉を言いつつも、テキパキと計画的にこなしながら、そこはかとなく充実してそうな感じなので、何となく楽しそうだし。

何気に、【ベン・トー】に伍するくらい、読んでて腹が減る作品になってきたなあ。次回もわりと、そっちの方面でも期待してしまう自分がいるのでした。