それだけでうれしい (まんがタイムコミックス)

【それだけでうれしい】 松田円 まんがタイムコミックス

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そばに居られるだけでうれしい。
好きだから、幼なじみのままでいたい。

これ、舞台設定が絶妙ですよね。登場人物たちは、学生を終えて職を得て社会人になっているため、環境の変化によって人間関係が強制的に変化させられる事もない。それぞれ職場は自営業。しかも、同じ商店街。加えて、男の方は喫茶店のマスターという職業で、相手から訪ねてこられても何ら違和感も抵抗感もない。お互い仕事を持ってる社会人同士だと、特に用事もなく相手の家に入り浸る、というのはなかなか難しいですしねえ。
そんなこんなで、物語の焦点は登場人物同士の微細な人間関係の変化にあてられ、それもお互いの感情の機微と周りの人間関係の変化の影響によって訪れるもの、に集約されている。

面白いのが、幼なじみの将一と夕子の関係で、二人の関係に無頓着な将一の方ではなく、将一に片思いをしていて今の心地よい二人の関係が変わってしまうのを恐れている夕子の方が、恐る恐るにしろ一歩一歩変わっていくんですよね。
ただただ曖昧な現状維持を望んでいたとしても、それが確約されたものではない以上、延々と不安はこびりついたまま離れず、心地よいはずの関係もまた、物足りなさと寂しさに虚しさを覚えていく。
もしそれが、二人だけで完結した世界なら、何も変わることなく同じような距離感でずっと先まで行けるのかもしれないけれど、必定人とは多くの人との関わりあいの中で生きるもの。自分には関わりのないように一見見える、周囲の人間関係の変化が、思わぬ形で自分たちの方に波及してくる、というのは避けられない事象なのだろう。
畢竟、変わらないものというのはないと言える。

この二人にとって幸いだったのは、なにより夕子の見合い相手だった三好さんが、二人にとっての教導者だったことだろう。この人、夕子に好意を抱いているのは確かに間違いないとは思うんだけど、それを成就させようという気合というか、強い意志みたいなものがまったく感じられないんですよね。それどころか、悩む夕子に時に助言を与え、行くべき道を示唆してみせる。もし、彼が本気だったとしたら、夕子は多分心奪われるようなシーンが何度もあった。ところが、そのたびに彼は夕子に冷静さを取り戻させるような、茶化すようにして彼女が一歩此方に踏み込んでくるのを優しく押しとどめるような言動をとる。
何故彼がこのような自分を抑制するような行為に及び、むしろ嬉しそうに夕子が自分が選ぶべき道を見つけていくのを見守っているのかは、のちのち彼の過去とその後悔が明らかになることによって理解できるんだけど、普通はこんな都合のいい人、いないよねえ。
まーでも、三好さんはこれ、未だに引き摺ってるんだろうなあ。未練はあっても、邪な感情は抱いていないんだろうけど。
雛乃さんは、分かってて三好さんに絡んでるよね、これ(苦笑
未だに恋愛感情があるってことはなさそうなんだけど、自分の想いに気づきもせず、他人のものになる寸前にようやく気付いて後悔して引き摺ってるような馬鹿な男に、ささやかな意地悪、といった感じで。
怖いなあ、女の人って(w