鋼鉄の白兎騎士団 IX (ファミ通文庫)

【鋼鉄の白兎騎士団 9】 舞阪洸/伊藤ベン ファミ通文庫

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巻を数えて9巻目。ここに来て、ガブリエラたち遊撃小隊にル・アンヘルへの救援隊に加わるように指令が下る。ついに二桁に乗ろうかというほどシリーズも長く続いているわけだけど、驚いた事にガブリエラたちはこの合戦が初陣となるんですよね。確かに、お局様の乱は白兎騎士団の中での内紛であり、しかも電撃的な制圧戦だったので本格的な軍と軍がぶつかり合う戦闘ではなかったし、これまで遊撃小隊がくぐり抜けてきた数々の修羅場は、みんな非正規戦の類いだったわけですし。
それでも、ガブリエラたちはもう何度も何度も死線をくぐり抜け、生死の境界線上を綱渡りしてなおかつ見事に渡りきってきた歴戦のツワモノたちなので、その彼女らが初陣ということで柄にもなく緊張しているのが、なんとも不思議な光景だった。
むろん、やはりただの戦闘と合戦では何かが違うんですよね。とてつもない数の人間が同じ場所に集い、戦意を殺意を滾らせてぶつかり合い、殺しあう。個人対個人、少人数同士のせめぎあいとは全く異なる、凄まじくも異様な空間が合戦の場には現出するわけです。彼女らは自分たちのこれまでの経験を踏まえてなお、これから体験する初陣がこれまでとは全く違う何かなのだと肌で感じ取り、緊張しているわけですな。

前の巻の感想でも触れたけど、この作品で興味深いのは、というか作者の手掛ける戦記物によく見られる傾向なんだが、戦争になっても万単位の軍勢の合戦は扱わないんですよね。この巻では、登場する各国の軍の動員能力や運用システムにも詳しく触れているのだけれど、そこではまずこの世界観では、一万を超す軍勢の運用は各国の国力、組織構成からみても、ほぼあり得ないと明記されてるんですよね(絶対不可能と書いてないのは面白いところ)。
自然、戦いは最大規模でも数千同士のものとなる。でも、意外とこの程度の規模の方が、下手に大軍同士の戦いになるより、戦況をダイナミックな展開として動かしやすいところがあるんですよね。
この物語の主役となる白兎騎士団がおよそ数百規模の兵団であり、なおかつ個々の団員にスポットを当てて描いている以上、こうした世界観の括りは非常に抑制的でロジカルであり、意外と、と言ったらアレだけど、このコミカルなのりに比して地に足がついてる感じがする。

前回は政戦略家としての側面を存分に見せつけたガブリエラだけど、一転今回は血と泥にまみれた現場で、常に冷静に、転じて熱狂的に振る舞い、味方を叱咤激励し、部下を生かし、死なせていくというアルゴラ隊長の背中を追うことになる。
そうして、今回隷下に入った一番隊隊長アルゴラの、指揮官としての立ち振る舞いや心構えを貪欲に吸収しているのが目立ったなあ。
こうして、彼女の魔王じみた頭脳に、血肉が通っていくわけか。現場を知らない作戦家で戦略家では、騎士団長という重責を担うわけにはいかないし、部下も本当の意味ではついてこないものね。
それにしても、この子は特に出世欲とかないくせに、無意識だか自然にだか上に立つ者としての在り様を、冷静に自らの血とし肉としようとしているさまには、ちょっと空恐ろしいものすらあるなあ。なんか、アルゴラ隊長の一挙手一投足を『観察』し『分析』していた風でもあったし。つまるところ、資質があるってことなんだろうけど。ライトスタッフってやつかしら?

合戦の推移はなかなか流動的で予想もつかない展開となり、全体でみると少数勢力である白兎騎士団の部隊が戦況の趨勢を握る事に! というのは言い過ぎか。でも、最終的にみると白兎たちの判断と果敢な行動が合戦の結果の重要なファクターとなったわけだから、間違いではないはず。下手に、少数が大軍を圧倒的な力で打ち破り、大勝利! という展開ではなく、合戦の主役ではなく、でもポイントを突く働きで貢献、という展開への持っていきかたは見事だったなあ。
やっぱり、作者の戦記は面白いわ。


さて、こうして遊撃小隊が本物の合戦に加わるような状況になった、と言う事は、世界情勢がどんどんきな臭くなってきているという事でもあるわけで。さあ動乱の時代の気配が漂ってきた。