9S(ナインエス)〈10〉true side (電撃文庫)

【9S 10 true side】 葉山透/増田メグミ 電撃文庫

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さて、今回から絵師さんが山本ヤマトさんから変わってしまったわけですが、この表紙の彼女はヒロインの由宇になるんですかね? ちょっとこの表紙絵については誰が誰だか分からないものの、中のカラー口絵については髪の跳ね方とか目の印象とか、よく由宇の特徴を捉えていて違和感全くなし。他にも挿絵などもおおむね好印象。マモンこと舞風なんか素晴らしかった、グッドジョブ♪ 山本ヤマトさんの絵は好きなので、交代は残念だったのだけれど、代わりの人がこの人で良かったんじゃないだろうか。

内容の方だけど、前巻からだいぶ経ってたので結構忘れてたなあ。そうだよ、由宇と闘真ははからずも決別する羽目になってたんだよなあ。
落ち込みへこみまくって、地下の隔離施設にひきこもる由宇が、引きこもり方も豪快とも見えるけど、単に自室にこもって布団を頭からかぶってイジケテルようにも見えてしまう不思議。
そこには以前の人間の枠の外にいるかのような超然とした峰島の落とし子の姿はなく、一人の男の子に想いを寄せるただの女の子の姿があるだけ。自分を絶望の闇から救い出してくれた王子さまと、決して結ばれる運命にない、それどころかいずれ殺し合わなければならない定めと知ってしまった悲運のお姫様、の役どころに首まで浸かり浸っている始末。それだけ、本人も知らず知らず浮かれてしまっていたって事なんだろうけど。
そんな彼女を見ていられずに、何とか奮起させようと四苦八苦している麻耶は、いつの間にか由宇のこと滅茶苦茶好き好きー、になってるよなあ。妹さんや、お兄ちゃん好き好きーのブラコンはどうしたんじゃ?(笑 大好きな兄にちょっかいを出す天敵のはずだったのに、もう甘やかす甘やかす。
まー、麻耶から見たら、闘真も由宇も根っからの天然同士で何をしでかすか分からない手のかかる人たちだから、しっかり者の妹としては、放っておけないんでしょうけど。面倒見イイ子だなあ。

一方、闘真がクルールを連れて旅だったシベリアでは、峰島の遺産による生態系ハザードが発生しつつあるという、人類のみならず地球の生きとし生けるものすべてにとってのクライシスが勃発。
このクライシスが発生していく過程の描写は、生物の進化と発展がグロテスクかつ神秘的に描かれていて、なかなか迫力があったなあ。変に生々しい生物生物としたものだったまたB級映画的な別の印象があったんだろうけど、地球上の生物とか根本から違う珪素生命体の誕生と進化、独自の生態系の形成という流れは、思いっきりSFチックで、SF特有の人間の在り方の根本から根絶やしにされそうな、根源的な不気味さ、恐怖感があって、また読み手の高揚を煽る煽る。
しかも、クライマックスには人間たちの想定を引っ繰り返す大どんでん返しが待っていて、これには「うわっ」と声を上げさせられた。
なるほど、これはまったく既存の生命とはまったく違う。生態系という見た目や実際の被害に目を奪われて、そういう想像はまったくしていなかった。既存の概念に縛られていたら、これは意表を突かれるわ。

驚きといえば、クルールもそうだった。この子はもっと徹底して無感情、人としての情緒を持ち合わせていないものなんだと思ってたけど、闘真と過ごしている時の反応(闘真ってかなり子供好きだよなあ、この辛抱強い対応の仕方見てると)、シベリアに来てからの母親と再会してからの微妙な仕草を注意深く見ていると、なるほどこれがなかなか雄弁である事に気づかされる。しまった、可愛いぞ、この幼女。
お母さんのスヴェトラーナの不器用な反応も良かったなあ。この人に対しては闘真の天然が有効に機能していた感じ。闘真のぽわぽわとした言動に「和んじゃだめ和んじゃだめ」と言い聞かせてる時点で手遅れですw
この人もまた、過酷な運命のもとに生きてきて、その未来も殆ど闇に閉ざされているようなものなんだけど、それでも毅然と生き抜いていこうとする姿は、ただただ眩しい。報いも少なく生きてきた彼女には、娘であるクルールの再会によって訪れる幸があって欲しい所だけど。再会できたというだけで、もう十分みたいな気持ちになってるところがあるのが、少しさみしい。まあ、それで満足しておらず、オロオロと娘の反応を伺い、おっかなびっくり手を差し伸べようとしているので、この母娘にはもっと確かな想い出が出来て欲しいんですけどねえ。それで、クルールにも、もっと大きな変化というか成長があって欲しい所なんですが。この子の認知障害が額面通りのものじゃないのではないか、というクエスチョンが出てきたのは気になる所ですけど。

印象変化というか、ニューヒロインとして新たにマモンがプッシュされてきたのは、意外というべきなのか、出てきた時から微妙にその気配はあったというべきか。
彼女、こっち側についたなら地の文でのマモンという大罪側の名称はやめた方がいいんだけどなあ。絶対、舞風の方がいいよ。その方が女の子らしいイメージが膨らんでいいと思う。
八代とのコンビや掛け合いは、このシリーズの新たな目玉になりそうなんだから、もっと女の子として立脚させて欲しいんだけどなあ。マモンだと、どうにも自分は性別が読みとれなくて中途半端な印象になってしまうので。

ストーリーも盛り上がってきた所なので、この次はなるべく早く出して欲しいなあ。