さよならの次にくる<新学期編> (創元推理文庫)

【さよならの次にくる<新学期編>】 似鳥鶏/toi8 創元推理文庫

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三作目にして、これは最高傑作きただろう!?
二作目の<卒業式編>が日常の中のこじんまりとした事件を幾つか取り扱った短編集だったので、こうしてちっちゃくまとまったタイプの青春ミステリーで行くのかと思いきや、どうしてどうして。
この三作目も当初は同じような路線で行くのかと思いきや、事態が二転三転とまるで予想もしない方に転がっていき、そのたびに「なんとーっ!?」と驚愕に翻弄される。
その予想もつかぬ展開も、実のところ様々な細かい描写、さりげない仕草、それまで捉えていたのとは全く別の側面からスポットを当てることでまったく違う意味を持ってくるエピソードによって、入念かつ丁寧に伏線が仕込まれているので、唐突感はまったくなく「なんとっ! そういうことだったのか!?」という、心地よさのある驚愕なんですよね。
この巻に限らず、二巻でのキャラクターたちの何気ない行動にも三巻での展開に繋がるものがあり、おそらくは一巻の中にもそれらはちりばめられているはず。一巻で伊神さんが「僕は父親にはならないよ」といったたぐいの発言をしているのですが、その時は特になんとも思わなかったのですが、こうして伊神さんにまつわる謎の一端が明らかになった今となると、あの発言がどういう想いを持って発せられたかが色々と想像できてくるわけです。
特に二巻は、まさにこの三巻への仕込、という点があったんだなあ。卒業式での伊神さんのあまりにエキセントリックな行動は、単にこの人がエキセントリックな人だから、と言う点でなんの疑いも抱いていなかったのだけれど、あんな明確な理由があったとは。
伊神さん、卒業してしまってもう登場しないのかと思ったら、むしろ今まで以上に出張ってきたのはちょっと笑ったけど。伊神さん携帯って、葉山くん(笑
呼べばすぐに来てくれる伊神さんが、フットワーク軽すぎるw

今回は謎に満ちていた伊神さんという人間の中身がさらけ出されて、興味深かったなあ。この人は最初から最後まで普通の人間の範疇から逸脱した奇人の類いなのかと思う時もあったけど、というか大かたはその通りなんだけど、もっとシンプルに普通の人間の感性を持った人でもあったんだなあ。
それをよくわからせてくれたのは、まったくもって葉山くんの功績。
なんで伊神さんがこのどこか頼りなくも普通の少年に目をかけ、学校のみんなが何だかんだと彼に頼ってくるのかが、ものすごくよく分かった気がする。
大した奴、というか頼れる奴、というんじゃないんだけど、この子には全幅の信頼を寄せられて、自分の大事なものを預けられるような何かがあるんだよなあ。
柳瀬先輩が彼にちょっかいかけてくるのも、男の見る目があるということか。最後に、新入生のあの子が彼に向ってあんな事を言い出したのも、まあ無理からん。一連の事件における彼の対応、そして最後のあの気配り。まあ、ズキュンだわなあ。なるよ、なるなる。
いやあ、それにしてもあの新入生の子にはビックリさせられたなあ。一度じゃなく二度までもびっくりさせられたもんなあ。柳瀬先輩大勝利! かと思わせておいてアレだもんなあ(苦笑
思えば、表紙絵の彼女は柳瀬先輩じゃなくてこの子の方だったのか。いや、てっきりこのシリーズは葉山くんと柳瀬さんの二人が表紙だと思い込んでたので、新学期編のこの子も柳瀬先輩だと思い込んでたよ。ちょっとキャラデザインが安定しなさすぎだ、とか思っちゃってて全力ですみません!!
違うわけだよ。全然違うじゃないか。当り前だろう、はずかしいっ。
初登場のエピソードだとまだよくどんな子か分からなかったんだが、美術部に入り浸るようになってからの、言動が明晰かつ明瞭でハキハキとした態度。それでいて活発すぎずとても知的で思慮深そうな物腰。彼女の素性やらが明らかになっていくにつれて伝わってくるあの人と似た部分。まあ、無茶苦茶スペック高いよー。正直言って自分は柳瀬先輩派だったんですが、これはちょっと転向させられかねないキラーマイン。
ミノじゃないけど、柳瀬先輩、グズグズしてる暇ないっすよ、これは。完全に来年三月までのタイムリミット勝負じゃないっすか!
実のところ、この三巻を読むまでは柳瀬先輩の葉山君に対する真意が分からない部分があったんですが、ミノをはじめとした周りの人の発言や、実際の彼女の妙に挙動不審な態度を見ていると、これは間違いないかな、と思うようになった。ストーカー張り込みの時といい、合宿の時といい、真相解明編の時といい。いや、でも葉山くん視点だと確かに滅茶苦茶分かりにくいんですよ。これはよっぽど勘ぐらないとわかんないし、勘違いや思い込みの類と言われれば反論しにくいなんとでもとれる態度だしねえ。この人は、あまりに女優すぎるよなあ。
でも、ヒロインアピールとしては、今回の柳瀬先輩は八面六臂の活躍だったと思われ。いや、ヒロインアピールかどうかは怪しすぎる方向だけど。完全に演劇部の女首領だもんなあ。愉快な姐御すぎる。葉山くんが彼女を称して、モデル並みの美人だけれど、しゃべりだすとお笑い芸人にしか見えない、というのはあまりに的確すぎて、いやはや。ストーカーガツン、のシーンでの彼女の唐突なあれは、一瞬マジで信じかけたし。ああいうの、即興でやるんだから、普段の言動もどこまでが真実でどこまでが演技なのか、けっこう分からんぞ。

にしても、面白かった。一巻、二巻で描かれてきたキャラクターたちの個性や存在感をさらに昇華させ、大どんでん返しを何度も用意するあの一巻を彷彿とさせる構成。あくまで青春ミステリーの枠組みから逸脱しない日常の延長線上の、でもとてもエキサイティングで活発な、そして何より、友情や親子の想いといった人情がじんわりと包んでくれる優しい心地。
うん、素晴らしい傑作でした。