いつも心に剣を〈3〉 (MF文庫J)

【いつも心に剣を 3】 十文字青/kaya8 MF文庫J 

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 bk1

ああ、やっぱりそう来たか。これまで醜悪で旧弊に塗れ、正義を高らかに謳いながら、欲望に引き摺られ社会の枠組みからはみ出たものを容赦なく棒で叩く人間たちのおぞましさをこれでもかと描く一方で、魔女の側を自由と友愛によって結ばれた、はみ出し者で社会のルールに疑問を抱くユユやレーレにとって共感を感じるように描かれていたのですが、前巻で予想していた通り、これまでユユたちが見てきた魔女の姿が、結局は一面的なものでしかなかった事が、この巻では嫌というほど描かれることになる。
彼女らの優しさや愛は結局のところ、仲間だけの間で通じるものであり、人間に対しては残虐非道の限りを尽くす。そこに老若男女の区別なく、かつてユユが親しみを感じた魔女や魔王もまた、容赦なく罪悪感のひとかけらもなく嬉々として人間たちを殺戮していく。
一方で、アナベルを追いかけるヨナハンたちとレーレたちが出会った以前とは別の聖騎士団は、団長以下とても立派な人物であり、これまで殆どがろくでもないものとして描かれていた人間の側にも、光となりえるようなものが存在することが此処に示される。
結局、真に正しいものなどどこにもなく、人も魔女も己の正義に寄って立ち、それを否定するものを排除しようとし、剣を向け合っているに過ぎないことに、両者の狭間に立つレーレとユユは思い知ることになる。人の社会の在り方を許せず、だからと言ってハイデンを襲う魔女たちのやり方を見てしまったユユは、自分が結局どこにも受け入れられず受け入れる事の出来ない、本当の意味でのはみ出し者なのだと気付く。その上で、彼女にとって寄る辺となるものが何なのか。ありのままの自分を受け止めてくれる人が誰だったのか。それを絶体絶命の危機を前にして、ユユは悟り認め受け入れる事になるのだが……。
ユユの顛末は詳しくは描かれる事はないのだけれど、おそらくはあっち側に引き込まれる事になったんでしょう。彼女の意思による決別ではなかった事は、このシリーズを読み始めて予想していた展開と違ったのでちょっと意表を突かれた所ではあったけど。そのあり方に失望を感じた瞬間に組み入れられる、というのは皮肉な限り。でも、彼女が自分の安息の地をはっきりと自覚したのは、物語の進む先を展望するに希望の光なんだろうけどね。現時点では、彼女はレーレの生存を絶望視しているだろうし。
それよりも、これまで人を殺す事に忌避感や罪悪感を抱き、そもそも魔女たちに対して害意を抱いていなかったレーレの変貌の方が恐ろしい。もっとも、独りになることで思考停止しているようで、その実色々と深く考えるようになっているっぽいのは、進展かもしれないけど。これまでは考える事は殆どユユに預けてたもんな、レーレは。

予想と言えば、ヨナハンはもっとひどいことになるかと思ってたんだけど、思いのほか真っ当に荒んだ上で一つ皮がむけたなあ、彼は。元々馬鹿がつくくらい純粋一途な人品だっただけに、一度けがれてしまえば取り返しのつかない所まで堕ちてしまうかと思っていたんだが、ちょっと彼の事を見縊っていたらしい。どうやら、本当に強い男だったようだ。彼には、これまで何くれとなくレーレに助けられていた分、独りになってしまったレーレの支えとなって欲しい所だけど。

この巻、セルジュがどれだけ陰険にユユをいたぶるのか、ちょっと楽しみにしてたところがあったんだけど(おい
そりゃあ思いっきりユユのことを精神的に揺さぶってたのは確かだし、レーレのこといたぶって楽しんでた所はあったけど、もっとエグイこと仕掛けてくると思っていたので、この子、生い立ちや現在の環境やヨナハンとの関係のストレスから色々鬱屈たまってるんだろうけど、思いのほか歪んでるわけじゃなかったんだろうな、これだと。元々はイイ子なんだろう。先日まで、ユユに慰められて素直にうれしそうにしていた面もあるんだし。
まー、これはセルジュのやり口がヒドイというよりも、ユユの方が意外と撃たれ弱かったというべきなような。レーレを取られて、あれだけ素直にヘコむとは。レーレがイヤイヤ従っているのはあからさまなのに、レーレが自分に嘘をつき、誤魔化そうとしているという行為そのものにあれだけ傷ついているあたり、この子は本当にレーレに精神的に寄り掛かっていたのが察せられる。
もし、彼女がレーレと別れた時、一人になってしまっていたら、もっとヤバかったんだろうけど。どうやらあのベラって子は一緒なんだろうし。ユユの性格からして、護るべきものがあったらこの子は早々くじけないっぽいので、やっぱり心配なのはレーレの方だな、うん。

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