ねこシス (電撃文庫 ふ 8-9)

【ねこシス】 伏見つかさ/かんざきひろ 電撃文庫

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か、かわいい。なにこれ、やべえよ。もう美緒がべらぼうに可愛いすぎる!!
鈴が猫可愛がりするのも痛いほどわかる。この世にこれほど可愛い生物がいるのか、というくらいにかわいい。あれだな、可愛いさかりの子供を持た親御さんとか、初孫相手のじいちゃんばあちゃんはこんな風な気持ちになるんだろうな、きっと。
猫又一家の三女に産まれ、十三年を猫として過ごしてきた美緒が、初めて人化の術を成功させ、猫と人間の感覚や価値観の違いに戸惑いながら、初めて体験する人間としての世界を、純粋で無垢な心のままに体験していく、優しい姉妹たちに囲まれたとてもとても素敵な物語。

十三番目のアリスの頃からそうだったんだけど、この作者さん、親愛の情がたっぷり籠もったスキンシップの描き方がとても巧かったんですよね。俺妹の場合、あの兄妹にしても素直にスキンシップ交わすような間柄じゃなかったので、その手の場面なかったんだけど、このねこシスはとても姉妹仲が良い関係であり、そもそも美緒が他人に甘えることを猫の本能そのままに忌避しない性格なので、屈託ない愛情たっぷりのスキンシップが随所に見られて、もうニヤニヤしっぱなしでした。

初めて人間に変身して、猫とはあまりに違う感覚に戸惑う美緒の様子もまたべらぼうに可愛くてねえ、た、たまらん。そんな美緒の可愛さを横においても、人間というまったく別の生き物に変化した後の違和感や感覚の違いへの驚き、新鮮な感激、感動の描写がとても丁寧に描かれてるんですよね。猫と人間の視覚認識の違いから、味覚の変化まで。それら猫と人間の齟齬に戸惑う美緒を、甲斐甲斐しく世話する、人化としては三年先輩になる妹の鈴が、またいい子なんですよね。口絵や紹介文から、とても元気の良い子らしいというのは分かっていたんですが、その分気分屋で短慮な考えの先走りしがちな子なのだと思い込んでたのですが、非常に気配り上手で甲斐甲斐しくしっかりものの妹さんで、初めてなことばかりのやや天然でぽややんとしたお姉ちゃんの美緒を嬉々として世話して、その様子に一喜一憂する姿は、この子はこの子でめちゃくちゃ愛らしい。
そのさらにお姉さんである次女の千夜子も、ウソつきで素っ気無く言う事も辛辣なツンと澄ましたひねくれ者のお姉さんなんですが、黒猫のクロとの関係といい、なんだかんだと妹たちをとても大切にしている事といい、元は俺妹の黒猫の原型だったらしいキャラなんですが、個人的にはこの千夜子姉さんの方が好きだなあ。
そして長女のかぐらお姉さん。本来は大の人間嫌いのくせに、妹たちの人間の中で暮らしてみたい、という意思を常に尊重し、彼女たちを大切に守りながらも、一個の対等な相手として扱うその態度は偉いんですよね。多少大人げない所はあるんですが、伊達にみんなのお姉さんじゃないというところですか。美緒との話からすると、どうにも過去に人間との間に恋愛がらみでひと悶着あったみたいな感じなんですが、どうなんでしょうねえ。

最初は猫と人間の感覚の違いに翻弄され、その新鮮な驚きの連続に好奇心を大いに満たしていた美緒ですが、やがてこれまで猫として生きてきた自分と、何年も人間として生きてきた千夜子と鈴との間に生まれ始めていた価値観の齟齬に戸惑い、そして姉妹たちが通っている学校に体験入学をすることで人間たちと触れ合う事で、猫とは大きく違う人間たちの考え方、自由な猫の生き方とは裏腹の窮屈な社会の在り方というものにも触れ、様々な体験をしていきます。
その上で、美緒はこれからも人間として生きるのか、それとも猫に戻るのかを選択することになるのですが……。
姉妹の愛情、人間の醜さと優しさ、そういった人間関係や行動原理、感情の機微といったものがとても丁寧に、丹念に、優しく柔らかく温かく描き出された、ぽかぽかと心が温まる素晴らしい作品でした。
これこそが伏見つかさという作家の真骨頂、とすら言いたくなるような作品だったなあ。面白かった。それ以上に、とても優しい気持ちになれる作品でした。
ああもう、これ大好きだっ!