迷宮街クロニクル3 夜明け前に闇深く (GA文庫)

【迷宮街クロニクル 3.夜明け前に闇深く】 林亮介/津雪 GA文庫

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あれ? このマドンナ――野田さんという女性は記憶にないな。手元に(すぐに発掘できる所)に同人誌版がないので確認はできないんだが、ウェブ公開版ではこの人いなかったんじゃないのかな。こんな同性の敵みたいな立場だと、一緒に地下に潜ってくれるチームって男性だけで編成された部隊でないと無理なんじゃないのか?
これほど同じ女性に嫌われている人にも関わらず、飄々としているのは面白い人だなあ。しかも彼女の行動を追う限り、屈託なくあっけらかんとした性格で表面的には見えない部分で思慮深く、気遣いも上手いのを考えると、どれだけ男性遍歴に問題があろうと、この迷宮街で生きてるような女性なら、わりと親密に友達付き合いしそうな人が居てもおかしくなさそうだけど。一度街を離れる前、よっぽどな事をやらかしたんだろうか。
彼女の果たす役割は、話を読み進めていけば分かる事だけど、作者はこの街が辿る岐路に、もう少し説得力を持たせたかったのかな。というよりも、上の階層でくすぶっていた人たちに対するフォローなのかもしれない。けっこう、辛辣な視線で描かれてたしね。真壁の日記なんかでも、さらっとキツい事云われてたし。個人的にはそこまで云わんでも、と思ってたので中山義経のくだりを書き下ろしで掘り下げて書いてくれたのは、精神的にもホッとさせられるものだった。
ここでホッとしてしまうということは、自分もまた波乱を遠ざけ冒険心を忌避し、安寧にしがみつく類いの人間だ、ということなんだろう。向上心をなくしてしまった、と言ってもいいかもしれない。やれやれである。

ツライ、というともう一つ、このシリーズを読んでいると思い知らされて辛いものがある。ついつい錯覚しがちなんだが、強い=死なない、じゃないんですよね。ゲーム、小説、漫画、映画、なんでも強いとその人はなかなか死なないのです。死んでしまうのは、より強い相手に当たったか、困難な状況に陥ったか、シナリオの都合によるものか、というのが大半なのです。
最強の一角に数えられるような強者が、詰まらないことで死んでしまうなんてことはまずない。
でも、人間なんてものは本当につまらないことで、簡単に死んでしまうものだというのを、このシリーズは顔をそむけてもそちらに回り込んで目の前に突きつけるみたいにして見せてくる。
死の危険がある場所に踏み込んだなら、たとえその人の強さによって死の確率を減らせるのだとしても、何度も繰り返せば、繰り返し踏み込めば、必ずいつか死ぬのだと告げてくる。
それがたまらなく重たい。その重たさを踏まえてなお、この街に留まる人たち。その異常さが、たまらなく辛い。
葵なんかも、さらっと異様に重い覚悟を自然に備えてるんですよね。自分の大切な人だろうと、必要とあらば見捨てる覚悟。
また、いつか必ず死ぬとわかっている場所に留まる理由。それが、誰の場合も明快に示されていなくて、ものすごく居心地悪いんですよね。
本来、この現代社会では、そんな理不尽な覚悟も、殺される可能性に立ち向かう必要もないにも関わらず、自ら好んでそれらを内包しようと言う人々。それはとても得体の知れない不気味さで、このシリーズは読めば読むほど面白さと同時に精神的な疲労感が圧し掛かってくる気がします。色々な意味で、ヘヴィだ。


彼の死を踏まえて、主要なメンバーが集まって協議するシーンがあるのですが、書き下ろしの短編で三原さんが行った改革を踏まえても、少なくとも探索者たちが行える領分では、死の確率を軽減する対処療法に留まるんですよね。そして、軽減されるだけでは決してこの問題は解決しない。事故なら改善によってゼロに近い部分に減らせるかもしれない。でも、ここで行われているのは殺し合いで、相手は殺意を持って攻撃してくる相手。どれほど対策を立てても、不慮の事態は起こり続けるわけです。それが、現場の対処である限り。というか、地下迷宮が地下の怪物たちの領域である限り、探索者が侵入者である限り。
もし本気で安全をはかるなら、より深い階層への探索を行おうと思うなら、上から順番に侵略し、占領し、支配下におさめなきゃならないんでしょう。それはもちろん、探索者がやれる内容じゃないですし、自衛隊はけっきょく断念したんでしたっけ。継続的な治安維持は、兵士の銃剣よりむしろ土木工事とエーテル研究に掛っていそうなんだけど。

次で最終巻なわけだけど、もう話の進み具合からして殆どあの事件ぐらいしか残っていないんじゃないのかしら。なんか、大幅に書き下ろししてくださりそうな予感。

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