スイート☆ライン〈2〉オーディション準備編 (電撃文庫)

【スイート☆ライン 2.オーディション準備編】 有沢まみず/如月水 電撃文庫

Amazon
 bk1

有沢まみずという作家の特異な才能の一つに、登場人物の感じた感動、興奮などといった感情の熱量を、ほぼダイレクトに、直列接続しているかのようにそのまま読者にシンクロさせる事が出来る、というのがあると思っているのですが、この【スイート☆ライン】という作品はまさに有沢さんのそのダイレクトシンクロニシティをふんだんに駆使していると言っていいんではないだろうか。
物事や人間の姿を余計な偏見なく、ありのまま素直に直感的に受け取り、それを論理的に解釈し、時に感動を、感嘆を、時に畏怖や寒心たらしめる心地をやや過剰なくらいの(こいつ、感動屋の類いだよな)情動によって出力する主人公の感覚をダイレクトに伝えられる事で、この作品に登場する人物たちは、それぞれが様々なオーラを漲らせて見惚れるような意気込みを握り込みながら闊歩し、作中において紹介される小説やアニメは此方もぜひ見たくなるような素晴らしい傑作の気配をたなびかせ、これから制作されるであろうアニメーション作品は、その制作段階から噴火寸前のマグマのような熱気をうず巻かせながら胎動している、そんなひりつくような熱量もまた、ダイレクトに伝わってくるのだ。
否応なく、そう否応なく高揚感が高まってくる。祭りを前にしたような、凄まじい嵐を待つような、このテンションの高鳴りが、また凄いんだ。
まったく、こればっかりは正午の高揚に中てられたとしか言いようがない。逆にいえば、正午がこんな風に感じていなかったら、決して感じとることのできない気配なんですよね。私はあんまり作中のキャラクターに感情移入しないタイプで、実際正午に対してもその考え方や他のキャラへの想いの在り方など、完全に外から見ているんですけど、ただその誰か、もしくは何かに対する感情の発露については思いっきり引っ張り込まれるんですよね。抵抗もなんもあったもんじゃない。彼がすげえ、と思ったらこっちもすげえ、と思ってしまい、彼が怖いと思った人は、こちらもなんかわかんねえけどこええ! と思ってしまう。彼が素晴らしい才能の発露を目撃して興奮しまくれば、同じように興奮し、彼が面白すぎる作品にのめり込めば、此方もビリビリと痺れるような思いに打ちのめされる。まったく、直列シンクロしてるとしか思えないじゃないですか。
【いぬかみっ!】でも、クライマックスで全員のテンションがあがりまくったときとか、思いっきり引き摺られた記憶があるけど、この人の書く話の感情回路の持っていかれっぷりは、毎度毎度参るわ、ほんと。
しかも、まだ前哨戦も前哨戦。準備段階で始ってすらいない状態。ようやく、キャストが揃いだしたという段階でこれなんだから、はじまったらどうなるんだと震えすら起こってくる。いやはや。

もちろん、登場人物みんなが前向きなのではありません。思いつめ、道なき道を行こうとしているもの。新たな段階に踏み出そうとしているもの。意気込みに身体がついていかないもの、様々な難事が今まさに始まろうとしている祭りの奥で蠢いているわけです。
本来ただの高校生で、アニメ制作とは何のかかわりもないはずの正午の、この存在感というのはホント何なんでしょうね。面白いなあ、彼の役割というか、立ち位置は。不思議といつのまにか、多くの人の土台、支え、大黒柱みたいな存在になってるんですよね。応援団長、というのは云い得て妙かも。
たとえばラストのはるかとのシーンなんか、並みの男じゃあんな対応できませんよ。カッコ良すぎます。そもそも正午に最後の意見を聞きにくるという時点で、どれだけ精神的な頼みとされているのかがよくわかるというものです。

そうか、彼の存在にこれまで一番助けられてきたのは、お姉さんだったんだな、きっと。だからこそ、前の巻で永遠の件で助けを求めてきたのか。やり手でキレ者、バイタリティにあふれたバリバリ働くキャリアウーマン、という様相の完璧超人系の流れをくむお姉さんだけど、一巻の頃からさりげなく無理してる部分は描かれてたんですよね。というか、身体は決して強くなく、我も他人を圧倒するような無茶苦茶な人とは違う、という風には触れられてた。多くの人に慕われ頼られるような完璧超人に見える人になっていったのは、それこそ正午の支えがあったからで、元々はもっと弱さに縮こまる人だったのかもしれないなあ、と今回ふと思ったり。
なんかこう、いい姉弟だよなあ、この二人は。

恋愛パートは相変わらず、永遠が拗ねたり嫉妬したりしてるけど、進展と言うものは殆どなし。まー、正午がまるで恋だの何だのというのは頭にないからな。仕方ないと言えば仕方ないんだが。まさかのトンガちゃんルートはまずないだろう。
そもそも、面白い事に正午の好みからは永遠は完ぺきに外れてるんですよね。お陰で、正午は永遠のこと、意識としてはまるで意識していない。パンツ見えたり無防備さに困ってたり、ちょと恥ずかしい思いはしてるけど、そこで永遠のこと意識したり、と言うのが完膚無きまでにないのが、まさに永遠のこと眼中にない、というのが分かってしまって、なんともはや。永遠からすれば前途多難である。

一巻感想