ごくペン! (MF文庫J)

【ごくペン!】 三原みつき/相音うしお MF文庫J

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くわぁぁっ、きたきた、これはきた。素晴らしいぃぃぃ!
MARVELOUS!!
またこれは素晴らしい新人さんが来ましたヨ。

偏差値70オーバーのぼくこと五十嵐真太郎がバカの殿堂として名を馳せる毒マムシ学園に転校したのには重大な理由がある! 一緒に東大に入ろうと約束した幼馴染みの権田原凜子がこの学園に通っているという噂を聞いたからだ! 想像以上に古風で脳天気なヤンキーの吹きだまりだが、ツッコミどころ満載のおかしな彼らに思わずツッコミを入れまくっているうちに、ぼくはヤンキーたちから崇められるようになってしまった。そして再会した凜子は――なぜか私設極道の女親分になっているぅ!? 明朗にして軽快に魅せる第5回新人賞審査員特別賞受賞作!! お披露目にござんす!!


うむむ、これは凄い。はちゃめちゃに面白かった。
単に笑えた、楽しかった、ラブコメが素晴らしかったという以上に、一つの物語として確固とした骨太の骨子があったのです。このガツンと心を揺さぶる感動は何なのかと考えていたのですが、ひとつハタと思い至りました。
ハイグレードおバカ学園ラブコメとか東大に一緒に行こうと誓った幼馴染がヤクザの女親分になっていた、という字面に惑わされてしまったけど、この物語はいったい何だったのかというのを一言で言い表すならば、それは――――

革命

これに尽きるのではないでしょうか。
これは文字通りの意味の革命です。辞書で検索する所の
【支配者階級が握っていた国家権力を被支配者階級が奪い取って、政治や経済の社会構造を根本的に覆す変革。】
まさにこれ。力こそすべてという無法を敷く体制に対し、弱者を救済しゴミのように扱われていた民衆に人としての尊厳を取り戻すために戦いを挑んだ革命家と、その革命の真実をつぶさに見つめようと追いかける一人のジャーナリストの物語だったのです。こう解釈すると、この突飛でエキセントリックな作品の全貌がストンと綺麗に腑に落ちる。
お馬鹿丸出しのテンションの中で、時折ドキッとする深刻かつ切実に響く登場人物たちの懊悩の呟きが、切ないほどの嘆きが、何を意味していたのかよくわかる。
あれは弱者として抑圧されたものの、世間から見捨てられたものの、人としての尊厳を足蹴にされたものの、それでも諦めきれない絶望し切れない悲鳴であり、訴えの叫びだったわけだ。

夢見た理想の幼馴染との再会を、最悪な形で裏切られた主人公真太郎は失望に打ちひしがれるものの、ヤクザの女親分となってしまっていた凛子に会いに来たと言えず、咄嗟についてしまった戯言「ぼくは『文学』の力でこの学校に知性を与えるために来た」に縋りつき、彼が理解できない概念、凛子の提唱する任侠仁義の真実、毒マムシ学園という掃き溜めの真の姿を取材のために追いかけるうちに、この学校に通う猿以下と呼ばわれるろくでなし皆が胸に秘めている痛みと諦めを、凛子が真に何を成そうかを、自分が何を求めていたのか何をしたいのかを見つけていく。
そして、第三者として学園構図の枠外の立場に立っていたはずの自分に毒マムシ学園を支配する理不尽の暴虐が襲いかかっとき、自らが第三者の他人ではなく当事者と、本当の弱者となったときに、彼は真の意味で、頭による理解ではなく心からの実感として、この学園の痛みと凛子の覚悟を、彼女が自分を何も裏切っていなかった事を理解するのだ。
ここから「……この学園に人間はいますか?」という言葉から始まる彼の演説は、まさに史上に残るような名演説だ。虐げられる人々に決起を促す、貶められた人々に人の尊厳と言うものを思い出させる、一人の文学者として、世に訴えるべき言葉を繰るジャーナリストとしての、心震え立つような戦いだった。

マジで感動させられた。

確かに馬鹿馬鹿しいキャラに展開が山盛りで、ぶっちゃけそれがやたらと面白く笑い転げさせられたものの、ただそれだけのお馬鹿なドタバタコメディだと受け取って済ませてしまうのは、あまりにも勿体ない。勿体なさすぎる。
この熱く劇的で、なにより真摯に人の強さと弱さを、心に訴えかけてくる力強さを描いている革命劇を、ただそれだけのものとしてしまうのはあまりに勿体ない。
逆にいえば、これだけ誠実な主題を、何一つ変質させないまま、ここまで馬鹿げたお馬鹿なコメディという枠組みに仕立て上げた作者の筆力こそ瞠目に値するのかもしれない。
これはもう、先々が楽しみな新人さんが現れたものです。というか大ファンになってしまったヨ。

これは云うまでもない事かもしれないけど、ヒロインの凛子がまた素晴らしくキュートで可愛いんだ。やくざの女親分として威風堂々とした振舞いこそしているものの、読めばわかると思うがまずもって女の子。ものすごいキュートな女の子。昨今、ここまで健気で可憐な少女と言うのも見た事がないくらい。多分、モデルは【瀬戸の花嫁】の瀬戸燦なんだろうけど。
幼き日の真太郎との約束を破ってしまった事を悔いながらも、今自分がなそうとしている事には誇りと覚悟を持っていて、その狭間に立たされ苦しみながらも、真太郎を気にする姿はカワイイったらありゃしない。
幼いころと同様にお互いの事を好きなの知りながら、今の立場、新たな関係に戸惑い悩みすれ違い、それでも段々と理解を深め、愛情は何一つ変わっていなかったと受け入れていく、青春恋愛劇としても秀逸な出来なんですよね。お互いラブラブながらもどかしい距離感がまた素晴らしく、それだからこそ二人の想いが通じ合った時の感動とドキドキはひとしお。折々で見せられるラブシーンは、滅茶苦茶悶えさせられましたよ。

あと、アイマス千早派なのが露骨すぎ。ちょっとは自重しましょうw


とても面白く、個々のキャラクターも凛子、真太郎以下みんな好きになった作品でしたけど、もっともっとこの子たちの騒ぎっぷりを見ていたいけど、でもこれは続きは出して欲しくないなあ。もうこの一巻で書くべき事は余すことなく描き尽くしているので。革命は完ぺきになされたのですから。これをさらに続けるとなると、完全に蛇足になってしまう。これで続いたら、編集の見識を疑いますよ。
この作者さんには、さっさと次の新しいステージを用意してほしい。

なんにせよ、最高の一品でした。大満足!!