天川天音の否定公式 II (MF文庫J)

【天川天音の否定公式 2】 葉村哲/ほんたにかなえ MF文庫J

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そうか、これはそういう事だったのか!!
完全に登場人物の立ち位置を勘違いしていたのが、シロコの天音への痛烈な指摘とエピメテウスの繰り言によって、この作品について捉えていた構図がガラリと百八十度引っ繰り返った。
そもそも、非日常の象徴として雪道と瑛子を巻き込む存在として現れたはずの天音こそが、逆に巻き込まれた側であり、もっとも普通の人間であり、この惨劇が約束されている未来の運命に対する部外者だったという事か。
故にこそ逆に彼女――天川天音こそが雪道・瑛子・天音の三人によって紡がれ始めていたこのぬるま湯のような安息の日常を護る担い手となり、部外者であるが故に運命を覆す要となり、雪道や瑛子の歯止め――ストッパー、いつか彼らが境界を飛び越えてしまうのを、日常の側に引き留める存在になるということか。

てっきり典型的パターンとして元々日常サイドの人間だった瑛子の方がその役割を担う側だと思い込んでいたんだけれど、今回の一連の事件での瑛子の行動を見ている限り、彼女にはそういう立場に立つ事が絶対に無理だと思い知った。
瑛子と雪道の関係は、あまりに重く深く断ち難い繋がりによって、それこそ魂の根源からと言えるほどの深度で繋がっているので、日常とか非日常とか周りの環境、生死の境ですら問題ではないんですよね。彼女にとって雪道とは絶対と言っていい存在であり、彼の辿る道ならたとえ地獄だろうと奈落の底だろうと何の躊躇なく付いていく。他の何を捨てても振り返る事すらないだろう、まさしく絶対存在。
それは、雪道にとっての瑛子もまた同じで、それはかつて雪道が彼女のことを「自分にとっての光だ」とのたまったように、瑛子の存在は雪道にとって何を引き換えにしても後悔のない掛け替えの無い存在。今でこそ天音やシロコが現れ、彼にとって護るべき存在は増えているとはいえ、瑛子はまるで別格なんですよね。
そんな二人が、二人だけでいたなら、きっと軽々と越えてはいけない境界を踏み越えてしまうに違いない。いずれ襲い来るであろう明示された絶望の運命に、彼ら二人だけでは抗えない。
そこに、天音の存在が必要になるわけです。
ただ二人だけで完結しかねない雪道と瑛子の間に現れた、運命の部外者天川天音。彼女は異能者であり非日常の側の人間でありながら、あまりに普通の人間であり、多くのしがらみを捨て切れずにいる人間です。ラストに近いとあるシーン。あのシーンで躊躇なく雪道のいる場所に駆けこんでいった瑛子と違って、天音は異常な空間に隔てられた雪道のいる場所に飛びこむことを躊躇い、迷ってしまいました。
ヒロインとして致命的に見えるこの行動こそが、きっと天音の存在がこの物語において、雪道と瑛子の二人にとって、かけがえのない者となる事を示しているんじゃないかと思うのです。
異能者でありながら普通の人間そのものである彼女だからこそ、二人を日常の側に引き留める、過酷な運命から二人を護る存在になるのでは、と。
ですが、部外者が、普通の人間が運命の楯になるのなら、それ相応の代償が必要。大好きな二人を守るため、彼女はここでしばらく前、同じような選択を迫られた瑛子と正反対の選択をするわけです。それぞれが多大な勇気と覚悟を持って。
この時点を以って、雪道と瑛子と天音の三角関係というものは、誰一人欠けてもいけない、尊いまでの繋がりと化したのではないでしょうか。
もっとも、正直、今回の一件で天音はめちゃめちゃな勢いで死亡フラグを立てまくった気がします。雪道は、きっと最後に立てた誓いを果たす事はできないんでしょうけれど、守られたその先にこそ、もう一度果たせなかった誓いを果たす機会を得るのでは、となんとなくそんな展開を想像してみたり。それには、きっと瑛子が必要なんだろうね。瑛子こそが雪道の光なのだし。だからこそ、誰一人欠けたらいけないんだわ、きっと。

とまあ、完璧に入り込む隙のないように見えたこの三人の中に、見事にすべり込む事に成功した浅闇シロコというキャラクターの描き方は絶妙の一言。なるほど、出自と言い雪道や瑛子との関係といい、彼女が秘めていた知識と目的といい、その行動の果てに辿り着いた居場所といい、彼女もまた運命のキーパーソンとして重要な立ち位置を担う存在になるわけだ。具体的にどういう役割を担うかは、次回以降に見えてくるんだろうけど


シリアスパートの尻上がりの面白さと同様に、ラブコメパートもまたニヤニヤが止まらんのよですねえ。一番常識人で抑え役だったはずのクールで冷静だったはずの瑛子さんが、際限なく暴走しまくり、それをあたふた右往左往しながら必死に宥める天音の構図。おい、逆、元々の立ち位置と逆逆(w
猫被りのダメッ娘という属性に苦労症という属性まで付けて、天音さんはいったいどこまで行くつもりだ(笑
一巻で、既に振り回され役と思われた主人公の雪道が実は無自覚に振り回す方だったと発覚した上に、瑛子の無表情に惑乱暴走するタイプ、しまいにシロコは小悪魔的に事態をひっかきまわすタイプ、となると必然的に天音の抑え役の役回りが回ってきてしまうのか。傍若無人のお調子者に見えて結構根は常識人というのが発覚しちゃったからなあ(笑

一巻で絶賛に絶賛を重ねた本作品、二巻でますます惚れた、ベタ惚れ。自分の好みをスマッシュヒットされまくり。前シリーズの【この広い世界にふたりぼっち】よりは一般向けにカスタマイズされてるけど、まだまだ読み手を選ぶタイプの作品だとは思います。けど、自分相手にはまったくもって傑作様でございました。もう、こういうの大好きなんだよな、たまらん!!

1巻感想