シュガーダーク  埋められた闇と少女 (角川スニーカー文庫)

【シュガーダーク 埋められた闇と少女】 新井円侍/mebae 角川スニーカー文庫

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第十四回スニーカー大賞<大賞>受賞作。実に【涼宮ハルヒの憂鬱】以来6年ぶりの大賞受賞作だそうだ。
で、読んでみたのですが、なるほど、これは納得させられた。こんなの送られてきたら、賞をあげないという選択肢はまずないだろうし、あげるとすれば佳作や優秀賞だとあまりに違和感がありすぎる。しっくりこないし、居心地が悪い。
だとすれば、一番収まりがいいのはどうしても大賞以外ないんですよね。必然的に大賞をあげなくてはどうしようもなくなる、これってそういうタイプの作品だなあ、と感じた次第。
だってもう、完璧と言っていいくらい無駄が省かれているんだもん。恐ろしいくらい徹底的にシェイプアップがなされ、限界までそぎ落とせる部分はそぎ落としている。
普通、ここまで無駄をなくしてしまうと話の中身などが薄っぺらく感じたり、こそぎ落とした故の鋭利さについていけなかったりと、物足りなさや置いてかれた感に苛まれて、作品に没頭できないケースが多くなってしまうものなんだけれど、この作品の凄いことはこれほど徹底的にシェイプアップしたにも関わらず、少なくとも読んでいる最中には一切物足りなさや作品と読者との乖離感などを感じさせず、独特の雰囲気、世界観に飲み込んで夢中にさせ、余計な部分に意識を持って行かせない所なんですよね。
あとになって思い返してみると、ザ・ダークがどこから来るのかとか、狩人たちとは何者なのか、あの老人たちの背景とか、正直肝心な部分については何にも書かれていないんですよね。でも、読んでいる最中はそういう余計な部分にまるで気が逸れず、ひたすらこの陰鬱で重苦しい夜の墓所で毎夜繰り広げられる少年と少女の逢瀬に意識の全部を引き寄せられていたのです。
まさしくボーイ・ミーツ・ガールの一点突破。わき目も振らず、ひたすらに二人が感情を交わらせていく様子を描いていく。それこそ、二人の過去の思い出すらも舞台装置にして。
よくよく冷静になって振り返ってみると、二人がお互いを大切に思っていくその過程など、描き方それそのもは決して先鋭的でも深度が深いわけでもなく、わりとオーソドックスなそれなんですよね。少年が少女の事を特別に思っていく過程もけっこう唐突だったり、そこに明確な理由やらがあったわけでもない。
ただ、この墓地という舞台から吹き寄せ来る暴力的な陰影の濃さと、退廃的な空気、喉をやわらかく締め付けてくるような圧迫感、そうした圧倒的な雰囲気、世界観こそが、このオーソドックスと言えるボーイ・ミーツ・ガールを重苦しい闇の中で味わえる掛け替えのない尊い甘味に見せているかのようなのです。
その意味では、ザ・ダークの詳細や墓所の外の世界の有り様、いや、この少年と少女以外の存在というのは、あの特別な役割を秘めたカラスという子や、黒犬、配役として必要不可欠な老人を除けば、まったく不必要でしかない。確かに、それ以外は無駄で、無意味なのです。
だからと言って、こうも思い切ってバッサリと切り落とし、それを感じさせない、意識させないというのは、なるほど見事と言う他無いです。
これは、新人賞を審査する方としたら、減点すべき所が見当たらないでしょう。物足りない、なんて言ってしまうと無駄な部分を増やせ、と言う事になってしまうし。ぶっちゃけ、この作品を売れ筋に乗せていくには、その無駄な部分こそが重要になってくるようにも思うんだけれど、賞に送ってきた作品にはそういうことは言えるもんではないですからね。そうなると、もう大賞に放り込むしかない。

この作品、タイプとしては電撃で大賞とった【ミミズクと夜の王】の紅玉いづきさんと同じ流れを汲んでいるようにも見て取れるけど、あちらほど<物語>に特化はしておらず、ある程度ライトノベル的な要素も備えている気がするんだけれど、うーん、でもいっそ特化してしまった方が中途半端にならずにいい気もするけど、これは難しいところだなあ。