イスカリオテ〈4〉 (電撃文庫)

【イスカリオテ 4】 三田誠/岸和田ロビン 電撃文庫

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シリーズ初の短編集、なのだけれど番外編ではなく、短編連作形式の全部一繋がりの事件であると同時に、イザヤや玻璃たちが転機を迎えるエピソードであり、加えて次回以降の激動の展開を予想させる不気味な蠕動が露わとなる、という読み終わってみれば非常に重要な一冊だというのがわかる。
初っ端のノウェムが主人公のエピソードなんか、ノウェムと女子中学生の微笑ましいやり取りに和みながら気楽に読んでたら、真相でえらいヘコまされたもんなあ。

【第一章 銀のノウェム】
これまで、ノウェムに関してはずっとその機械人形らしからぬ反応に可愛い可愛いを連呼してきたわけですけれど、今までのそれは良く考えてみるとイザヤとの対峙から生まれるものが殆どだったように思います。ならば、ノウェムという人形兵器がまるで人のような心のあり方を垣間見せるのは果たしてイザヤ相手の時だけなのだろうか。
その答えが、この短編でははっきりと出ていたように思います。
偶々出会ったはずだった、元気溌剌、ちょっとそそっかしい女子中学生、遥との交流。他愛も無いお茶会で覗き見せるノウェムの姿は、ノウェムの正体を知らない遥の目には、神秘的でありながらたおやかな情感と優しさに満たされているかのように映っていて、それは冷たく心を持たない機械人形のそれとは、やはりかけ離れている。ならば、ノウェムという存在がそも供え持つ本質とは、イザヤの前で見せるそれそのままなのだろう。
この遥という子は非常に残念だったなあ。ノウェムをこうもフラットな目で見つめ、意外に鋭い観察眼で彼女の内面を的確に映し込む才能は、ノウェムの友人としてレギュラー化しても良かったくらいなのに。
ド派手な戦闘シーンは多々あれど、この短編でのノウェムと獣との戦いのシーンは、シリーズ通しても屈指の名シーンになるんじゃないだろうか。
「……許します」

この言葉には、泣いた。


【第二章 黒のラーフラ】
異端審問官にして、幾多の秘密を抱えたイザヤや玻璃を監視するものであり、いずれ彼らを異端として裁くことを目的としているラーフラ。味方でありながら、限りなく敵に等しい彼の過去が垣間見えるエピソード。人形であるノウェムよりも、むしろ機械のように冷徹に、虎視眈々とイザヤたちの動向を監視しているラーフラ。そんな彼という人間が培われた原点とも言うべき過去が、この話で分かるわけですが、分かったからといって彼がイザヤたちの秘密を暴こうと暗躍している事実が変わるでもなく、でもそんな彼も決して心の無い空洞の人間ではない、というのが辛うじて伝わる程度の微細な表現や演出の繰り出し方のバランス感覚は、ちょっと凄いなあと感心。ラーフラの過去がわかっても、だからどうした、という感覚しか読み手側には与えないんですよね。そういう書き方をしている。でも、徐々に、ゆっくりと彼に対する認識が変化していくような、慎重に加えられた積み重ねも確かにあって、この辺のキャラクターの立ち位置、読み手側の対象認識のずらし方は、やっぱり上手いなあ。


【第三章 紅衣の娘】
ああっ、玻璃の方はもったいぶらずにどんどん状況を進行させていくなあ。薄々、玻璃も自分の中に自分ではない何かが巣食っていることに気づきだしていた頃ではあったけど、まさかこうも早い段階ではっきりと玻璃に、バビロンの大淫婦の存在を知らせるか。それも遠まわしではなく、以前は意識が眠っていた玻璃が起きた状態で、妖女が動いてしまい、しかも両者が対話できる状態にまでなるなんて。
ただ、逆に言うとこんな状態になっても双方が自我を保ったまま存在しているのなら、両者が融合してしまうようなこともなさそうだな。玻璃が乗っ取られかけている、という見方も出来るけれど。でも、それなら玻璃の意識が目覚めたまま妖女が行動するというのも違和感あるし。
玻璃のほうに決定的な転機が訪れたのと同時に、妖女がけっこうとんでもない発言をしてるんですよね。彼女の言うことが真実なら、獣<ベスティア>は敵の真理ではなく、単なる盤上で踊らされる駒に過ぎないと言うことになるわけだし。
そもそも英雄だった壬生の変質や、妖女の不可解な在り様、そしてイザヤの身に起きつつある異常など、まだこの世界の軋みの本当のところは何も見えてきていないんですよね。過去の聖戦の概要も含めて。
どうやら、この巻の一連の事件を前ふりにして、次回以降そこのところに俄然突っ込みそうな、根幹に足を踏み入れそうな事件が、もう既に起こりつつあるのか。
次は春だそうで、長いなあと思いつつも、その間に他のシリーズの分も出してくれるんでしょう。


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