月見月理解の探偵殺人 (GA文庫 あ 8-1)

【月見月理解の探偵殺人】 明月千里/mebae GA文庫

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  bk1

たまに出て来るんだよなあ、こういう思いっきりファウストっぽい作品。そしてレーベル自体で、この手の作風の作品を手がけた事がない場合、大概問題作と銘打って売出してきている気がする。
ただ、この作品の場合厳密にミステリーに括っていいのか難しい部分がある。犯人探しや真相究明のロジックより、重点的に登場人物の心の闇、そのあり方そのものに主題を寄せてググッと踏み込みのめり込んでいるのを見ると、むしろライトノベルらしい作品と言えるのかもしれない。
なんにせよ、これは面白かった。新人賞作品とは思えないほど、完成度がバカ高い。ファウストっぽいと表現したのは、この最初から最後の二人のチャットのやりとりに到るまでの過不足のない美しいと言って良いくらい非常に均整のとれた物語の起承転結もまた、要因の一つだ。この約300ページという容量の中に、見事に書くべきことを必要な分、完璧に書き収めている。なかなかできる芸当じゃないし、ましてやこれ、新人作品である。よっぽど構成力に優れているのだろう。
ただ綺麗に書いて書き終わっているだけのスマートな作品というわけでもない。なにより、ヒロインである月見月理解のキャラクターの強烈さが凄まじい。傲岸不遜や唯我独尊という程度の言葉では収まりきらない、暴虐をもって興じ、冷徹に弄び、享楽的に蹂躙し、用意周到に踏みにじる。味方を乞わず仲間を作らず、周り全てを敵に回すことを厭うどころか、むしろ望んで敵意をぶちまける。
まー、強烈極まりない。
だけれど、驚嘆するべきはこれほどインパクトの強い強烈なキャラクターを世に送り出した事ではなく、彼女の特異性をラストの主人公との短いチャットでのやりとりで、恐ろしく明快に解体してしまったところだと思うんですよね。
なぜ月見月理解は悪しき者として在るのかを、見事なまでに端的に論証し、その印象を裏返してしまうことに成功している。
同時にそれを後付としないように、彼女の言動には確かにそれらしい痕跡が散りばめられているんですよね。普通、理解の言動は不快と苛立ちを常に引き起こされるようなメチャクチャなもののはずなんですが、これが意外と読んでいる間は彼女に対して殆ど悪印象を受けなかったんですよね。それは彼女が身体的弱者だからなのか、暴虐の中にある種の愛嬌があったからなのか、それはなんともいえないのですけど、彼女の行動原理がれーくんの言うとおりならば、なるほど彼女の中に必死な無邪気さ、とでも言うようなものが常に付きまとっていたのも納得出来るわけです。

彼女のみならず、主人公のれーくん含め、妹との関係や宮原さんの程よく現実的な黒さといい、心の機微の描き方、その曝け出し方を含めて非常に秀逸で、読み応えがありました。それぞれが抱く理由にしても、決して大仰すぎず身近な、だけど生半では背負い切れない負債から湧き出した闇は、身近であるからこそとても痛々しく苦しそうで、背中をさすってやりたくなりました、はい。

とりあえず、れーくんは、同じ相手に二度同じ手が通用するなどと浅はかに考えたことを反省したまえ。むしろこの場合は、出会いのきっかけとなった探偵殺人ゲームにて、すでに手の内を晒してしまっていた、と考えるべきなんだろうか。
これはこれでスパンと一巻で綺麗に終わっているし、この終わり方だとれーくんは理解の相棒と成り得るのかけっこう微妙なところなので、はたして続きが出るのかはわかりませんけど、続編にせよ新作にせよ、この作者さんの手がけた作品なら、勇んで買いに走って間違いはなさそうです。
面白かったです、はい。