陰陽ノ京 月風譚 黒方の鬼 (メディアワークス文庫)

【陰陽ノ京 月風譚 黒方の鬼】 渡瀬草一郎/洒乃渉 メディアワークス文庫

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まさかまさか、メディアワークス文庫創刊ラインナップに【陰陽ノ京】のタイトルが並んでいたのを見たときには驚くとともに飛び上がって喜んだものです。電撃幼なじみ作家のひとりとして良質のファンタジーを提供し続けてくれている渡瀬先生でありますが、やはり私個人としましては作者の最高傑作は【陰陽ノ京】と信じて疑わない次第。
ときめく心とともにページを開いて至福の数時間。
嗚呼、嗚呼、もう最高じゃ!!
やっぱり【陰陽ノ京】は別格だ。渡瀬さんの文章においては、なによりこの作品こそが一番しっくり来るんだよなあ。面白かったーー。メチャクチャ面白かったー。
てっきり主人公は今までと同じく慶滋保胤だとばかり思い込んでいたら、月風譚ではそうなのか、それともこの巻のみなのか、主人公は保胤の甥にして、現陰陽寮の長である陰陽頭・賀茂保憲の長子・賀茂光榮となっている。
あの野卑でズボラでぶっきらぼうで素っ気なく、どこか斜に構えている癖に、妙に生真面目で繊細で細かいところまで気が回るという結構複雑で矛盾な性格をした兄ちゃんが主人公になりますかー。保胤さんはあれで相当面倒くさい人だったけど、光榮もこうして見ると結構主人公らしい厄介な人柄なんですよね。ただ、グダグダと内心では思いをめぐらしているにも関わらず、行動力は抜群なんですよね。考えることで立ち止まらず、考えながらも常に動き続けるあたり、非常に能動的で、その意味では動かしやすい主人公なのかもしれません。それなりに割り切り決断も早いし。
以前のそのままの続編ではなく、仕切り直しの新編という意味でも、主人公変更は良かったかも。前までのシリーズを知らなくても、読んだ感じまったく問題なさそうですもんね。
光榮と兼良のこれまた複雑怪奇な関係も、電撃文庫の時にはサブキャラ同士ということで、これほどまで面倒くさい事になってるとはわからなかったし。ただ、あの吉平くんと貴年の嬉し恥ずかしなイチャイチャ関係については、なんでああなってしまったかは前までのシリーズ読んでないとアレでしょうけど……。
そう、そうなんですよねー。またぞろ、この阿部吉平(12歳)の最強女殺し属性がまた見られるとは思わなかったよなあ。このお子様、登場人物中最年少にも関わらず、頭一つ二つ他の連中と女性に対する接し方が抜けているというか、凄まじいことになっているというか。もっとも、女殺しと言っても貴年相手だけなんですけど。でも、今回もひどいことになってたなあ。もう、口説く口説く。甘い言葉を囁き、躊躇もなくベタベタとひっつき、プロポーズ紛いの言葉を連発するという、なんだこの十二歳(笑
こんだけ積極的かつストレートに口説きまくるキャラって、渡瀬さんの他の作品見渡しても、見あたらないよw
二人で夜釣りに出かけて、釣りしている間じゅう寒いからと貴年を後ろから抱きしめながら釣りしてたって、お前、なにやってんだよ、ほんとに!! ヤバイ、行状が以前よりも悪化している。直接的になってる。そして、それを許してしまっているあたり、貴年のデレっぷりも堤防を決壊しつつある(笑
任務で路傍で警戒待機している吉平の元を心配で訪れ、何か手伝えることはないかと申し出てきた貴年に対して、じゃあただ突っ立ってるの寒いから、この間の釣りの時みたいに抱きつかせてー、とかあっけらかんと女の子に要求する、なにこの十二歳(笑
いやあ、普段のこの子、登場人物の中でも屈指のマジメで聡明で冷静で賢い子なだけに、貴年相手の時だけのこの女殺しへの変貌ぶりが、毎度ながらギャップが凄くて、笑っちゃうんだよなあ。
しかも、周りの大人たちは貴年が女の子とは知らず、みんな男の子と思い込んでるのがまた、なんともはや(笑
この時代、十五歳くらいになればもう、男女とも結婚して子供をもうけてもおかしくない年齢ですからね。あと三年もすれば、貴年、食われちゃいそうだなあw

と、思わず年少組二人について熱く語ってしまいましたが、この二人のみならず、光榮と兼良の複雑怪奇な関係や、左大臣藤原実頼と、外法師桔梗と藤乃母娘の入り組んだ愛情によってつながった関係など、死後になっても残る思い、鬼に変貌する人の心などをメインに扱うせいか、非常に繊細かつ丁寧に人と人との繋がり、想いの在り方というのが描かれていて、読み応えがハンパない。
この実頼という、この時代の最高権力者のじいさんが、またイカした爺さんなんだよなあ。正直、惚れた。
権力者なんざ鼻にも掛けない光榮が、事件で面識を得たあと完全に意気投合してしまっているあたり、その人柄が知れるんじゃないだろうか。前主人公の保胤が顔見せした際の、二人のむちゃくちゃなやり取りには笑った笑った。
実頼と、桔梗・藤乃母娘との関係で違和感があった部分も、最後ちゃんと光榮が指摘してくれて、すっきりしました。やっぱり、そうだったんだなあ。でも、だからこそ桔梗があれほどまでになって残した想いや、実頼の桔梗への想い、藤乃への接し方というものが余計に尊く感じられるんですよね。やっぱり、この爺さん、素敵だなあ。
光榮は、どっか達観していると言うか、妙に俗世から浮いている部分があるんで、嫁取りとかは難しいんかなあ。少なくとも、彼の方からは今回のヒロインであるところの藤乃に対しては全然気がなかったようにも見えるし、実際そう明言しちゃってるし。藤乃の方は違うみたいだけど。
でも、賀茂家の長子で、もう27歳という年頃を考えると、幾ら何でもそろそろ貰っとかないと、ねえ。


どうやらこれにて一件落着、というわけではなく、兼良が追いかけていたシーンを見ると、なんかまだ続くみたいな感じで、嬉しい限り。
何はともあれ、伯家の姫様と保胤のロマンスだけは、なんとか決着つけて欲しかったし。
ところで、途中で洩矢の話しがかなり詳しく書かれていたけど、<みしゃぐじ様>とか。ちょっとは例のアレについて意識があったんだろうか。まあ、まったく関係なしなのかもしれないけど。