風に乗りて歩むもの (ガガガ文庫)

【風に乗りて歩むもの】 原田宇陀児/ringo ガガガ文庫

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読み終えてみると、ガチに本格的なハリウッド映画みたいな作品だったなあ。

謎の少女とタクシードライバーの逃亡劇。
私立探偵兼タクシードライバーのボギィは、旧知のアローニ警部からある東洋人少女の護送依頼を受ける。「行き先は言えない」と警部に言われ、毒舌を吐きながらボギィはその寡黙な少女を乗せ、とりあえずタクシーを走らせていると、突然、何者かの襲撃。少女は命を狙われている? なぜ……? 少女は何も語らない。何もわからぬまま「見えない敵」から逃亡を続けるうちに、ふたりの間にはいつしか不思議な絆が芽生え始め……。

このあらすじだと、唐突に逃亡劇が始まるようなイメージですけど、実際にはこれ以前にとある開演前の遊園地で起こった少女の失踪事件が発端として描かれています。ジェットコースター上から忽然と消えた少女の行方は。消えた少女の友人であり、同じジェットコースターに乗っていた娘クラニットが狙われる理由とは、誰が彼女を狙うのか。
そして、少女が消えた瞬間に現れた影、イタカと呼ばれる存在の正体とは。

粗野でぶっきらぼうな元警察官にしてベトナム帰りの私立探偵と、素性の知れないミステリアスな少女のデコボココンビの逃亡劇と並行して、ボギィの後輩刑事を介して繰り広げられる事件の真相究明劇。謎が謎を呼び、浮かび上がってくるのは常識では考えられない超常の存在の影。これらがうまく絡まり合って、単なる探偵モノでも逃亡ものとも違う、それらが合わさったとてもスリリングな作品に仕上がっている。さらに、イタカの存在がエッセンスとして加わって、物語の底辺に不気味な影を投げかけて、真相が明らかに為るその時までどこか薄ら寒い雰囲気をこびりつかせているんですよね。これが、また話の進む先を不鮮明にして、面白さを引っ張っていくんです。
そして、当初はお互いに不信感と警戒感を剥き出しにしてぶつかり合うボギィと少女グラニットの間に徐々に育まれていく信頼と親愛。ふたりとも家族に恵まれなかったせいか、その間には擬似的な親子のような想いがつながり始めるのです。ボギィはついぞ縁の無かった娘という存在をグラニットに感じ、グラニットは実の父から得られることのなかった父親の愛と、決して叶うことのない初恋をボギィにいだいていく。
二人の間に育まれた尊い絆と、避けられない別れへと至る時間。定番とはいえ、二人の別れのシーンは胸を鷲掴みにされそうな切なさが炸裂ですよ。
本人は切なさはない、といっているけど、羅列される感慨の言葉ひとつひとつが、やっぱり読んでるこっちとしては切ないとしか言い様がない。
吹き荒ぶさみしげな風の音色のような余韻に、少しの間だけ浸ってみる。