影執事マルクの覚醒 (富士見ファンタジア文庫)


【影執事マルクの覚醒】 手島史詞/COMTA 富士見ファンタジア文庫

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なるほど、エルミナとエミリオに纏わる以前からの奇妙な違和感は、こういう仕組みによって成り立っていたのか。単純な入れ替わりなら、これほど混乱させられる事は無かったんだろうけれど、正確な事実を把握している者と、完全に事実認識に錯誤を起こしている者、誤解しているものの違和感を抱いている者。これら三者がそれぞれの認識が食い違っている事自体に気付かず、もしくは気づいてもそのまま放置していたがために、それらがぶつからずに常にフラットに提示されてしまっている状態だったわけだ。おかげで、読んでるこっちは基本ベースはマルク視点ながらも、同じ事項に対して複数の事実認識が提示させられて、うまい具合に混乱させられるはめになっていたのか。
肝心の本人の片割れからして、完全に勘違いしていたのが致命的だったんだな。時折挟まれる回想がキーになっているのかと思ってたら、前提から間違っていたんだから。
それでも、それぞれの言動を冷静に吟味して行ったら、正確なところはつかめたんだろうけれど、紛らわし方が非常に絶妙で、露呈してしまえば別段複雑でもない単純な事実だったにも関わらず、本気で混乱させられてしまいましたよ。
思えば、先だってエルミナが記憶喪失になり、それまでの無感情な様子から一転、無邪気で快活な人格になってしまったのも、単に記憶喪失と入れ替わりの違いだけではなく、今回の彼女の言動から透かし見えてくる違和感を和らげるカモフラージュになってたんだなあ。普段の彼女からすると、この巻の彼女の細かな立ち振る舞いに浮き上がってくる違和感は、本来なら尋常ではなく引っかかるもののはずなんだけれど、つい先立ってそれ以上の変貌が彼女を襲っていたがために、紛らわされてしまったんですよね。改めて振り返ってみると、あからさまに別人だろう!? という振る舞いをしているのに(苦笑
そうやってちゃんと読み返してみると、エルミナとエミリオ、どちらがどちらの真似をしていたか。どちらが姉でどちらが妹か、というのは実にわかりやすい形で描かれているわけです。ただ、露骨でなくさり気なく、でもちゃんと分かるようにした描き方は絶妙で、読み返して思わず感嘆させられたんですけどね。
うむむ、これは人が増えて多人数になったのを持て余すどころか、逆に縦横無尽に活用しまくった、本気で上手い構成や心理先導だわ。
それぞれの屋敷内での立場や人間関係の立ち位置を最大限利用しつつ、内乱状態へと持っていく流れといい、一度は手の内を見せ合って同僚になったにも関わらず、逆に手の内がわかっているのを駆け引きの見せ場としつつ、さらに伏せていたカードを開いてみせたり、思わぬ契約者同士の連携の可能性を見せたりと、エンタメ的にも非常に盛り上がる演出がなされているんですよね。
なんか存在感無いのが売りみたいになってきていたオウマ君が、【魔術師】の異名に相応しい貫禄を見せたり、破壊力ばかりが先行していたアイシャがいつの間にか、一端の戦闘技術を手に入れてたりとか、アーロンの本気がちょっと洒落にならなかったりとか。
な、なんかみんな登場時点で既に尋常じゃない契約者ばかりだったはずなのに、さらに強くなってるようなw
それと同時に、みんなこの屋敷で働き過ごすことに遣り甲斐と幸福を感じるようになっているのが、そこかしこで描かれていて、じんわりとあったかくもあるんですよね。セリア姉さんの口から語られた心情と、この屋敷での生活に抱く想いの欠片は、今や皆にとってここがかけがえのないホームになっているのがなんとなく伝わってきて、素敵でした。
内乱状態も、それぞれが本気でこの屋敷や主たちを思っての事だし、あれだけ本気で真剣の対立が発生したにも関わらず、ごくあっさりと対立が収まり、まとまってしまうあたり、皆がなあなあで馴れ合っているのではなく、しっかりと繋がりを得た身内同士として成立しているが故なんでしょうね。ほんと、いいファミリーになりましたよ。
ファミリーといえば、アルバ兄さんが丸くなりすぎの気もするけど(苦笑
まー、アイシャとの仲睦まじさはほのぼのすると言うか、この野郎!と思うというか。いや、いいんだけど。結構世話好きで、何くれとなくエルミナたちをフォローしてくれるのはほんとに頼もしい人だし。人の心配している暇があったら、セリア姉さんの気持ちに気づいてやれよ、と思わないでも無いけどw

そんなこんなで、ヴァレンシュタイン家崩壊の最大の危機を乗り越え、これまで数人の心の中に秘められたままだった真実と今後の展望、そしてこの一連の事件を通じて打開策が明らかになり、一家使用人全員に情報が共有され、兎にも角にも一段落。これから、一致団結して目的のために邁進するのだ! となるはずなんですけど、またぞろ、でっかい波乱要素がーー!!
いやまあ、前巻のラストがなるほど、こういう事になってたわけか。これは確かに確固たる進展なんだけど、カナメは穏やかではないんだろうなあ。ラストの挿絵見ても、ちょっとキツそうなことになってるし。
こりゃあ、次回は修羅場か!


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