花守の竜の叙情詩2 (富士見ファンタジア文庫)

【花守の竜の叙情詩 2】 淡路帆希/フルーツパンチ 富士見ファンタジア文庫

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これも続編が出ると聞いて驚いた口なんですよね。一巻の終り方はとても切なく物悲しいものの、透き通るような美しさが心を鷲掴みにする悲恋の物語だっただけに、それを敢えて続けると言うのはかなり難しいことだったはず。
あとがきを見る限りでは、当初は著者もどうやら続きを書くつもりはなかったみたいだし。
その意味では、あの終りの余韻を台無しにすることなく、きっちり仕上げてきた淡路さんには自然と頭がさがります。これは御見事と。

銀竜となったテオバルトと別れ、エレンと二人着の身着のままで野に下ったアマポーラ。その後、優しい羊飼いの老夫婦に拾われ、住処と家族を手に入れて、なんとか暮らして行く算段をつけられ、いつ帰ってくるともしれないテオバルトを何十年経とうと、それこそ死そうとも待ち続ける日々に至ったアマポーラですが、ここで物語として終わっていればともかく、現実に彼女は生活を続けていかなければいけません。元々我儘な王女であり自らは何もせず暮らしていたアマポーラは、村落に住まう女が最低限しなければいけない仕事どころか、日々の生活を営むために必要なスキルや知識すら何も持たない状態。老夫婦はアマポーラを娘のように可愛がり、彼女に生活に必要な様々な知識や技術を教えてはくれるのですが、この時代、日々の生活と言うものは一個の家族内に収まるものではなく、ひとつの共同体の中で営まれるもので、特に過酷な使役が日常的な荘園の中ではよそ者であり、なんの役にも立たないアマポーラは自然と爪弾きにされてしまいます。
それでも、テオとの約束を信じ、老夫婦の愛情に報いるために、エレンを守り育てるために、母親として、必死に前向きに挫けることなく頑張り続けるアマポーラですが、やっぱりつらいことがとても多いんですよね。
もし、今回の歌姫の一件がなかったとしても、テオを待ち続けるアマポーラに、果たして幸せはあったんだろうか、とどうしても思ってしまいます。でも、彼女は挫けないだろうことは間違いないと、彼女をおそう理不尽に毅然と立ち向かう姿を見ていれば、それは確信として理解できる。彼女にとって、待ち続けることはつらいことではあっても不幸ではなかったんでしょう。苦しくても悲しくても、待ち続けることができたのは幸せだったのかもしれません。
その意味では、再会なったにも関わらず、テオとアマポーラの二人の間に訪れた転機は、彼女にとって苦しみや悲しみ、辛さが取り払われるとしても、とてつもない残酷な事だったのかも。
あの展開は、ラブストーリーにおいてわりと王道というかありがちというか、ここで続けるならまあこういうパターンが多いだろうなあ、特に少女系レーベルのだと、というものだったんだけど、アマポーラの寄って立つものを考えるなら、やっぱり凶悪にして強烈に残酷で悲劇なんだよなあ。

辛いといえば、アマポーラ本人は大丈夫だとしても、彼女を見守る老夫婦やエレンにとっては彼女が毅然としている事自体が見ていて辛い事だったんだろうなあ。エレンは事情を知っているし、アマポーラと思いを共有しているからイイとして、事情を何も知らずアマポーラに喪った娘を透かし見ている老夫婦からすれば、アマポーラの姿は痛々しいなんてものじゃなかったんだろうし。
この二人がいなかったらアマポーラとエレンは野垂れ死んでいてもおかしくなかったので、なんとかもう一度家族として一緒に暮らしていけたらいいのに、と思わずにはいられません。

しかし、改めて見直してみても、この物語、悲恋ものにも関わらず、アマポーラを支えているものはテオへの想いだけではなく、エレンを守る母親としての愛情、というのが他とは少し違う特徴なんですよね。この辺が、そこらのライトノベルとちょっと違う所なんだと。
一巻でも、エレンへの母性こそが、我儘で世間知らずだった彼女を大きく変えた要因でしたけれど、この二巻でも苦しい生活の中、アマポーラに力を与え続けていたのはエレンへの母親としての愛情でした。ほんと、もうしっかりと母親してるもんなあ。エレンも健気で小さいのにとても聡明で、本来は他人だったはずのアマポーラを母として慕い、幼い身の上ながら必死で母を守ろうとする姿は、本当に愛しい限りで。
この年の近い母娘が、本当の親子のように寄り添い合う姿は、見ていて心温まるものでした。だからこそ余計に、ここに父親の姿が無いのが物悲しいんだよなあ。


物語は、一巻では伝承の彼方にしかなかった女神と銀竜と悪魔たちの神話の真実と世界の今の有り様にまでスポットがあたり、テオ以外の古参の銀竜も登場することで大きく動くことになります。
女神がいかにして世界を形作り、悪魔がいかにして生まれ世に災いを無し、銀竜がいかにして誕生し悪魔を狩ってきたか。伝承の彼方に曖昧模糊として映っていたものが、具体的に表されたことで、テオが使命を果たしアマポーラの元に戻ってくるために何が必要なのか、それがどれだけ困難な事なのかが、詳らかになったわけですけど、さらに予想外のファクターが混じることで連綿と続いてきた銀竜と悪魔の戦いに大きな転機が訪れたわけです。
テオにとってはチャンスなんだけど、また残酷な話だわなあ。
他の銀竜たちにもそれぞれ悲劇と遺してきた想いがあり、二人ともイイ人なだけに、胸に来るんですよね。特に、テオが銀竜に為ることを選んだきっかけとなった伝説である聖女本人の物語も。
なんだかんだと、悪人罪人は多けれど、イイ人がそれと同じくらい多いのも、この物語の救いですねえ。たとえ罪を犯しても、今は悪心に身を引きずられても、人の心には良き部分があり、罪は濯げるのだと、子どもたちの悪戯から、王の悔恨、歌姫の復讐に到るまで、そしてかつて王族として多くの罪を犯してきたテオとアマポーラからして、人は善き方へと変われるのだという可能性を、この残酷で理不尽がはびこる世界観の中でしっかりと示している事こそが、この作品の雰囲気を切なくも暖かくココロ洗われるようなものにしている要因なのではないでしょうか。

うーん、二作目への不安を綺麗に払拭してもらいました。このシリーズ、次の三巻ですっぱり終わってくれる、というのも安心材料。きっと、感動的なクライマックスが待っていると信じて、最終巻を待ちたいと思います。

一巻感想