パパのいうことを聞きなさい! (集英社スーパーダッシュ文庫)


【パパのいうことを聞きなさい!】 松智洋/なかじまゆか スーパーダッシュ文庫

Amazon
 bk1

うああ、もうこれ卑怯。ボロ泣き。
やっぱりこの人、人情モノのホームドラマの方が絶対うまいですよ。ベタといえばベタなんだけど、その描き方のバランス感覚が絶妙と言っていい。
タイトルは【パパのいうことを聞きなさい!】という命令口調ながら、本編ではそんな頭ごなしに怒鳴るようなことは一切そういうことなく、娘たちの方もこの新米パパに変に反抗することもなく、飛行機事故で行方不明になった姉夫婦の娘たちを引き取った貧乏大学生が、一生懸命に協力して家族を形成していく物語なのです。
両親は既に亡く、自分も姉によって育てられた身で六畳間のアパートで暮らす大学一年生。とてもじゃないけど、中学生小学生三歳児という子供たちを引き取って育てていくなんて無理な話なんですよ。実際、懸命にやっていこうとするものの、どこかしらに無理が出てくる。それでもキレる事無くあきらめる事無く、姪っ子たちに辛い様子も見せずに健気にがんばろうとするこの青年がもう愛おしくて愛おしくて、それと同じく、両親を亡くして傷つき、新たな環境で疲れ果てているにも関わらず、自分を守ってくれようとしているこの若い叔父のために辛い顔も苦しい顔も一切表に出さず、悲しみを押し込めて、我慢する子供たちが愛おしくて愛おしくて。
お互いを守り守られ、傷ついた心を癒しあい、いつの間にか離れがたい家族になっていくこの四人の姿には、もう完璧やられました。
この作品の素晴らしいところは、がんばることをその四人の中で完結させてしまわなかったところだと思うんですよね。なに、あの友達! あんなの現実にいるのかよ!
仁村くんのスペックちょっと高すぎです。料理上手、きれい好きで気遣い上手って、どんだけスペック高いんですか。あんな親身になって助けてくれる友達なんてそうそういないですよ。おまけにその親切がぜんぜん押し付けがましくないんですよね。元々部屋に入り浸ってたのもあるし、女好きで軽薄というのが緩衝材になっているのでしょうけど、嫌味無いもんなあ。凄く軽い感じで手伝ってくれているので、助けを受けているほうも深刻になって重たげに感謝せずに済んでいるんですよね。これが変に真面目だったり真剣だったりすると、逆に好意を受け取るほうもどうしてもその助けを負担に思ってしまうものなんですが。
でも、週に何日も飯作りにきてくれたりとか、姪っ子たちと遊んでくれたりとか、掃除しにきてくれたりとか滅茶苦茶ありがたいんだよなあ、実際。そりゃあモテるよ、仁村くん。
それは、先輩の莱香さんも同様で、この人がもっと普通の女性だったらかなり気が引けたはず。何考えてるか分からない突飛な行動ばかりの無表情娘という変人だからこそ、余計な心配を押し付けたりせず、自然とこの急造家族の中にするっと入り込んで、彼らを支える事ができたのでしょうか。なんにせよ、こうやって親身になって助けてくれる友達がいてこそ、どう考えても無理だった家族生活が何とか営めたわけで、その意味では家族と同時に仲間、友人同士の繋がりも非常に重要視して描く作者の特色がよく出た素晴らしい作品だったように思います。
もちろん、若者たちが目の前に次々と押し寄せてくる困難に立ち向かっている間、後ろできちんと大人たちが彼らのことを見守って、いろいろと手配りしてくれていた、という点をキチンと描いているのもイイんですよね。悲劇によって打ち壊された幸福な日常を守ろうとした子供たちを、現実を見据える大人たちは最初嗜め、冷静になって受け入れろと諭すのを、子供たちは必死に抗い、厳しく乗り越える事が出来るはずの無い現実に立ち向かい、離れがたい絆を手に入れていくのを目の当たりにして、心動かされ、彼らが厳しい現実にこれからもずっと立ち向かえるための支えとなってくれる。大人たちが単なる障害ではなく、きとんとした壁として、乗り越えた後には守ってくれる存在にちゃんとなってくれているというのは、ホームドラマとしては最高の着地点なんじゃないでしょうか。

これで完結でもいいんじゃないかと思うくらい、綺麗に終わっているのですけど、どうやらこのシリーズも迷い猫と平行して続いていくみたいですね。あちらはラブコメ寄りなのですし、此方はこのままホームドラマとして路線分けしていってほしいなあ。勿論、莱香さんとの仄かな恋物語は順調に進めつつ。美羽あたりは、仁村くんあたりにあげちゃってもイイ気がするんだけど。まだ小学生ですがw